市街化区域農地の面積と固定資産税等の現状【令和4年度版】

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総務省が公表した「令和4年度固定資産の価格等の概要調書」によると、地方圏の一般市街化区域の固定資産税額は、10a当たり固定資産税額は5万8千円と、すでに約10年も前から概ね実質宅地並み課税と言える水準となっています。本則課税の割合が増えたことや、緩やかに地価が下落していることから、今後の固定資産税額は、全国平均で言えばこれ以上大きく上昇することはないと見込まれます。

三大都市圏特定市においては、平成4年当初指定の生産緑地の約9割が特定生産緑地に移行し、懸念された生産緑地の減少を最小限に抑えることができましたが、一方の地方圏においては、実質宅地並み課税であるにもかかわらず、生産緑地制度の導入は今なお一部の自治体に限られ、持続可能な都市農業を実現するための対応が急がれます。

ページの下の方には、市街化区域農地面積や固定資産税等のランキング100都市も掲載しています。データの並べ替えもできますので、ご覧ください。

目次

1.市街化区域農地とその固定資産税の仕組み

1-1. 市街化区域農地の位置付け

市街化区域とは、都市計画において定められた区域で、線引き都市計画区域では、「市街化区域」と「市街化調整区域」とに分けられます。市街化区域は、都市計画法に以下のように定められています。

市街化区域は、すでに市街地を形成している区域及びおおむね十年以内に優先的かつ計画的に市街化を図るべき区域とする。

都市計画法第7条第2項

しかし、市街化区域内には今も、多くの農地があり、都市農業が営まれています。都市計画法に則ると、10年以内にこれらの農地も“優先的かつ計画的に市街化を図るべき”なのかと言うと、必ずしもそうではありません。

都市農業振興基本法に基づき、2016年に都市農業振興基本計画が閣議決定されました。ここでは、農業政策および都市政策双方から再評価され、都市農地の位置付けについては、従来の「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと大転換が行われました。

1-2. 市街化区域農地の固定資産税等の仕組み

都市農地は、都市農業振興基本計画において「あるべきもの」へと位置付けが大転換されたにもかかわらず、都市計画法においては、依然として「優先的に市街化を図るべき区域」のままです。
後者の都市計画法の位置付けを前提に、市街化区域内の固定資産税と都市計画税においては、宅地並み課税が実施され続けています。

三大都市圏特定市ではバブル経済による地下高騰を背景として、1992年に生産緑地以外の特定市街化区域農地を対象に、名実ともに宅地並み課税が実施されました。

一方、三大都市圏特定市以外の地方圏においては、宅地並み評価による農地に準じた課税が実施されてきましたが、負担調整措置によって緩やかに課税額が上昇し、すでに多くの市街化区域農地が実質的に宅地並み課税となっています。

農地に準じた課税の仕組みや経過については、下のリンク先の記事をご覧ください。

2.都道府県別市街化区域農地の現状

2-1. 市街化区域農地面積・評価額・固定資産税の推移

地方圏の市街化区域農地においては、地価の下落とともにその評価額が下落を続ける一方で、10a当たり固定資産税額は負担調整措置により令和2年まで年々上昇を続け、令和3年に若干下がったものの、令和4年の税額は全国平均で約5.8万円となっています。

固定資産税の上昇と反比例するように、市街化区域農地面積は減少を続け、平成17年の約68.3千haから、17年後の令和4年には36.8千haと、概ね半減しました(図1)。

《図 1 一般市街化区域農地の面積・評価額・固定資産税の推移》

グラフ:一般市街化区域農地の面積・評価額・固定資産税の推移
(資料)総務省「固定資産の価格等の概要調書」をもとに作成。

2-2. 一般市街化区域農地の平均負担水準は0.868、67%が本則課税

一般市街化区域農地とは、三大都市圏特定市以外の市街化区域農地のことであり、負担水準(注1)とは、前年度の課税標準額が当年度の決定価格(評価額)に対してどの程度の水準にあるかを示すもので、この区分ごとに負担調整率(表1)を適用し、税額を計算します。

令和4年度の一般市街化区域農地の負担水準を見ると、全国平均で0.868とほぼ0.9に達しています。特に、和歌山県の0.998を筆頭に、次いで兵庫県(0.986)、三重県(0.984)など、22県で負担水準が0.9を超えており、0.8以上を含めると35府県に及んでいます(表2、図3)。

一般市街化区域農地の「農地に準じた課税」とは、宅地並みに評価し、負担調整措置において一般農地と同じ負担調整率(表1)を適用するという仕組みをとっています。この仕組みは、昭和47年に宅地並み評価実施、昭和51年に農地課税凍結解除と負担調整措置によって、全国の市街化区域農地の”農地に準じた課税”が始まりました。

その後、平成4年に三大都市圏特定市の市街化区域で宅地並み課税が実施された際に、その他の一般市街化区域農地が宅地並み課税の対象外となったわけではなく、それ以前から緩やかに宅地並み課税に近づけていく仕組みがすでに進行していた。地価(評価額)が下がっても、税金は毎年上がるという現象が見られたのは、この仕組みのためなのです。

負担水準が上昇しきると、負担調整措置による税額が本則課税額を上回るようになり、いずれか低い方を採用することから本則課税となります。こうして令和4年度に本則課税となった割合は約67%を占めており(図2)、これらの農地は宅地並み課税そのものと言えます。こうして、本則課税の割合が多くなったため、地価の下落が直接反映されて税額が前年より下がるケースも増えています。

一方、最も負担水準が低い県は沖縄県で0.548となっており、次いで千葉県(0.626)、岩手県(0.643)、宮城県(0.665)、新潟県(0.676)、東京都(0.678)などとなっています(表2、図3)。これらの都県では、今後もしばらくは、負担調整措置によって毎年税額が上昇することが見込まれます。

なお、東京都は負担水準は比較的低いですが、決定価格は最も高いため(39,246円/m²)、10a当たりの税額は約13.2万円と、神奈川県に次いで2番目に高い額となっています。

《図 2 一般市街化区域農地の負担水準別面積割合(令和4年度)》

円グラフ:一般市街化区域農地の負担水準別面積割合(令和4年度)

《表 1 農地の負担調整率》

負担水準の区分負担調整率
0.9以上のもの1.025
0.8以上0.9未満のもの1.05
0.7以上0.8未満のもの1.075
0.7未満のもの1.1

《図 3 市街化区域農地の平均負担水準(令和4年度)》

グラフ:市街化区域農地の平均負担水準(令和4年度

(注1)平均負担水準の計算方法
平均負担水準=(令和3年度単位当たり平均価格課税標準額)÷(令和4年度単位当たり平均価格決定価格×1/3)

3-3. 三大都市圏の特定市街化区域農地より一般市街化区域農地の税額の方が高い逆転現象も

10a当たりの固定資産税額(税率を標準税率1.4%とした計算値)を見ると(図4)、首都圏の東京都、神奈川県、埼玉県の3都県の特定市街化区域農地は、非常に高い税額となっていますが、その他の県では、特定市街化区域農地と一般市街化区域農地の差はさほど大きくはありません。

10a当たりの固定資産税額について、一般市街化区域農地の58,102円に対して、特定市街化区域農地の中では比較的税額の低い茨城県(56,323円)や奈良県(57,260)は、むしろ低い水準にあります。

特に神奈川県(142,566円)をはじめ、東京都、愛知県、高知県の4都県の一般市街化区域農地は、税額が10万円以上と高額で、一方、茨城県をはじめ、奈良県、三重県、京都府、静岡県の5県の特定市街化区域農地の平均税額はいずれも10万円未満となっています。

特定市街化区域の中で最も低い茨城県の宅地並み課税よりも、一般市街化区域農地の農地に準じた課税の方が高い県が19県にも及ぶという逆転現象となっています。

このように、すでに多くの一般市街化区域農地が、実態として宅地並み課税であるにもかかわらず、地方圏の大部分では生産緑地制度が導入されていないために、市街化区域農地所有者は選択の余地なく、重い固定資産税負担を強いられ営農継続が厳しい状況に置かれています。

地方圏でも徐々にではありますが、生産緑地制度の導入例が見られるようになってきましたが、個々の自治体の都市計画上の判断に委ねられているために、制度導入はあまり進んでいません。

《図 4 市街化区域農地の10a当たり固定資産税額(令和4年度)》

グラフ:市街化区域農地の10a当たり固定資産税額(令和4年度)
(注1)10a当たりの税額=課税標準額(円/m²)×1,000(㎡)×標準税率(1.4%)

表 2 特定市街化区域農地 地積・決定価格・課税標準額(令和4年度)

都道府県地積(市街化区域農地面積 合計)(ha)決定価格(評価額)(百万円)単位当たり平均決定価格(円/m²)単位当たり平均課税標準額(円/m²)10a当たり税額(円)平均負担水準
茨城県22629,24912,9224,08456,3230.948
埼玉県1,478752,55450,93416,793238,3270.989
千葉県1,104283,17625,6618,548119,4200.999
東京都595475,89480,02926,136376,5200.980
神奈川県888544,01361,25720,206287,6610.990
静岡県503101,52420,1716,93994,2701.032
愛知県1,892730,88238,62512,543180,6330.974
三重県27735,53112,8054,32060,2261.012
京都府36371,41419,6546,59391,7611.006
大阪府867196,09322,6177,561107,6881.003
兵庫県18658,50531,53510,252148,0310.975
奈良県67283,03512,3584,13557,2601.004
合計9,0513,468,04738,31712,300173,9740.963

表 3 一般市街化区域農地 地積・決定価格・課税標準額(令和4年度)

CD都道府県市街化区域
農地面積
合計(ha)
決定価格
(評価額)
(百万円)
m²当たり
平均決定
価格(円/m²)
m²当たり
平均課税
標準額
(円/m²)
10a当たり
税額(円)
平均
負担
水準
1北海道1,02467,5996,6031,57722,0760.697
2青森県69536,2965,2241,66723,3440.955
3岩手県25238,54815,3153,40247,6310.643
4宮城県51697,78118,9394,32860,5990.665
5秋田県24413,5195,5341,61022,5350.845
6山形県41158,44914,2203,76652,7290.763
7福島県1,320164,26112,4403,16944,3610.738
8茨城県2,927260,4848,8982,54435,6130.847
9栃木県2,043271,42013,2853,98255,7510.903
10群馬県1,489189,11112,7003,98055,7210.899
11埼玉県37893,17624,6706,10985,5220.726
12千葉県474,1678,9031,88726,4130.626
13東京都6927,02939,2469,421131,9000.678
14神奈川県26997,02336,11110,183142,5660.809
15新潟県840116,49313,8633,23345,2660.676
16富山県68686,73712,6383,97555,6460.947
17石川県816169,70520,7935,41375,7870.773
18福井県18338,78821,1506,71894,0470.945
19山梨県39468,86317,4725,32674,5630.906
20長野県677116,42417,2095,07571,0560.895
21岐阜県2,388441,79418,4995,17672,4690.847
22静岡県1,364269,83119,7856,07285,0080.912
23愛知県1,075340,45631,6709,334130,6740.867
24三重県84374,7378,8662,88140,3400.984
25滋賀県1,085140,80912,9803,71051,9380.858
26京都府29535,95312,1713,73152,2390.911
27大阪府23322,0029,4572,72038,0750.879
28兵庫県1,928264,65313,7274,50663,0900.986
29奈良県43548,49011,1413,43948,1510.945
30和歌山県48253,00510,9923,61850,6580.998
31鳥取県24530,91912,6013,79153,0810.904
32島根県17419,61211,3043,58650,2020.974
33岡山県1,654214,89112,9924,23259,2520.976
34広島県2,417391,65016,2074,75166,5160.869
35山口県1,06394,6768,9072,89740,5580.969
36徳島県778107,87813,8704,50763,0920.974
37香川県------
38愛媛県64288,36413,7564,30160,2150.944
39高知県30468,58122,5237,172100,4140.958
40福岡県1,463246,68016,8584,56163,8530.808
41佐賀県15718,92212,0653,72552,1440.925
42長崎県58827,1994,6291,50721,1030.976
43熊本県48254,01711,1973,37647,2570.887
44大分県63957,2998,9722,92140,8900.971
45宮崎県35238,89311,0513,48148,7290.944
46鹿児島県14927,00818,1345,47576,6550.893
47沖縄県28039,72914,2052,72138,0980.548
49合計36,7955,233,91914,2244,15058,1020.868

3.市町村別市街化区域農地の現状

3-1. 市街化区域農地面積の多い都市

市町村別の市街化区域農地面積(生産緑地を含む)上位100市ランキングを見ると(表4)、最も多いのは倉敷市(1,000ha)で唯一1,000haを超えている。次いで岐阜市(939ha)、姫路市(861ha)、福山市(788ha)と続き、上位11位までが500ha以上となっています。

上位ランキングには、政令指定都市などの大都市や中核都市が上位を占めています。

また、地方圏にあってすでに生産緑地制度を導入している岐阜市(2位・940ha)や広島市(5位・711ha)や和歌山市(7位・654ha)をはじめ、宇都宮市、金沢市、長野市、高知市、福岡市と合わせて8市が上位100市町村に含まれています。

一方で、宅地並み課税の実施から30年が経過した三大都市圏特定市の特定市街化区域を見ると、名古屋市(281ha)や浜松市(267ha、平成20年から宅地並み課税実施)、さいたま市(250ha)等では、依然として多く残っています。

市街化区域面積に占める農地の面積率を見ると、岐阜県羽島市の18.8%をはじめとして、上位5市が10%以上を占めるなど、大きな割合を占めています。これはかつての将来人口目標や市街化区域の設定が過大であったと言えます。逆線引きすることも難しいため、このようなケースこそ、生産緑地制度を積極的に導入することが有効だと思われます。

表 4 市街化区域農地面積(生産緑地を含む)ランキング100市(令和4年度)

順位団体CD都道府県市町村区分市街化区域
農地面積
(ha)
生産緑地
地区面積
(ha)
合計面積
(ha)
1332020岡山県倉敷市41,000.31,000.3
2212016岐阜県岐阜市4939.7939.7
3282014兵庫県姫路市4861.2861.2
4342076広島県福山市4788.4788.4
5341002広島県広島市3710.98.0718.9
6261009京都府京都市159.0521.2580.2
7302015和歌山県和歌山市3482.281.9564.1
8111007埼玉県さいたま市1249.8298.6548.4
972044福島県いわき市4521.4521.4
10231002愛知県名古屋市1281.4229510.4
11442011大分県大分市4500.1500.1
12141003神奈川県横浜市1180.9272.4453.3
1382040茨城県古河市4449.6449.6
14221007静岡県静岡市2236.3209.7446.0
15151009新潟県新潟市4440.4440.4
16331007岡山県岡山市4436.6436.6
17131008東京都特別区166.0356.1422.1
1892011栃木県宇都宮市3421.3421.3
19431001熊本県熊本市4413.0413.0
20382019愛媛県松山市4377.9377.9
21172014石川県金沢市3374.70.1374.8
2292037栃木県栃木市4371.6371.6
23222101静岡県富士市4366.1366.1
24162019富山県富山市4356.3356.3
25202011長野県長野市3337.03.2340.2
26141305神奈川県川崎市174.5263.7338.2
27132012東京都八王子市1111.7222.1333.8
28401005福岡県北九州市4316.2316.2
29422011長崎県長崎市4298.1298.1
30242012三重県津市4296.4296.4
3182210茨城県ひたちなか市4292.5292.5
32212024岐阜県大垣市4290.7290.7
33252018滋賀県大津市4283.8283.8
34221309静岡県浜松市2267.016.4283.4
35242021三重県四日市市1153.6125.1278.7
36362018徳島県徳島市4276.5276.5
37352152山口県周南市4274.1274.1
38122173千葉県柏市1116.5154.5271.0
39102032群馬県桐生市4270.4270.4
40212091岐阜県羽島市4267.0267.0
41132098東京都町田市161.0203264.0
4222039青森県八戸市4262.9262.9
4372036福島県郡山市4259.1259.1
44102059群馬県太田市4257.4257.4
4592053栃木県鹿沼市4253.3253.3
46162027富山県高岡市4248.9248.9
47232076愛知県豊川市4244.8244.8
4892088栃木県小山市4242.6242.6
4941009宮城県仙台市4237.3237.3
50392014高知県高知市3227.58.2235.7
5182031茨城県土浦市4235.6235.6
52112038埼玉県川口市1107.8120.7228.5
5382023茨城県日立市4228.3228.3
54232033愛知県一宮市1110.6113.6224.2
55242071三重県鈴鹿市4223.8223.8
56132021東京都立川市124.9196220.9
5772010福島県福島市4219.5219.5
58102024群馬県高崎市4218.6218.6
59222071静岡県富士宮市4218.2218.2
60141500神奈川県相模原市1100.8116.8217.6
61282103兵庫県加古川市4217.3217.3
62401307福岡県福岡市3213.92.5216.4
6392029栃木県足利市4216.1216.1
64122041千葉県船橋市144.9171.1216.0
6592045栃木県佐野市4215.7215.7
66152226新潟県上越市4213.6213.6
67352012山口県下関市4211.8211.8
68112011埼玉県川越市169.2138.9208.1
6911002北海道札幌市4206.5206.5
70242047三重県松阪市4205.0205.0
71212130岐阜県各務原市4204.0204.0
72232025愛知県岡崎市1127.276203.2
73402028福岡県大牟田市4202.8202.8
74202029長野県松本市4202.7202.7
75232017愛知県豊橋市4202.6202.6
76271403大阪府堺市156.4145.4201.8
77352063山口県防府市4199.9199.9
78121002千葉県千葉市1106.189195.1
7912131北海道苫小牧市4192.2192.2
80172103石川県白山市4191.2191.2
81232131愛知県西尾市1134.356190.3
82292010奈良県奈良市191.497.4188.8
83281000兵庫県神戸市183.5104.7188.2
84192015山梨県甲府市4187.5187.5
8532018岩手県盛岡市4187.0187.0
86272132大阪府泉佐野市155.5131.2186.7
87102016群馬県前橋市4185.1185.1
88382027愛媛県今治市4184.8184.8
89272027大阪府岸和田市175.3107.1182.4
90142115神奈川県秦野市184.997.4182.3
91212164岐阜県瑞穂市4178.5178.5
92132217東京都清瀬市114.3163.7178.0
93122076千葉県松戸市154.4123.4177.8
94232068愛知県春日井市1148.627.5176.1
95252026滋賀県彦根市4175.7175.7
96182010福井県福井市4175.6175.6
97282031兵庫県明石市4174.3174.3
9882015茨城県水戸市4168.6168.6
99132110東京都小平市111.9156.2168.1
100132055東京都青梅市142.5125.5168.0
(区分)
1:1991年1月1日現在において、三大都市圏特定市に該当する都市
2:1991年1月2日以降、三大都市圏特定市になった都市
3:三大都市圏特定市以外で、生産緑地制度を導入している市町村
4:その他、市街化区域農地のある市町村
(資料)市街化区域農地面積は「令和4年度固定資産の価格等の概要調書」、
都市計画税は「市町村交付金及び都市計画税に関する調」、
生産緑地は「令和4年度都市計画現況調査」

3-2. 地方圏で税額上位89位までが10万円/10a以上

市街化区域農地所有者は、固定資産税だけでなく都市計画税を合わせて納付する必要があり、10aあたりの固定資産税額と都市計画税の合計額(以下「固定資産税等の額」)を比較したのが次の表です(表5・左表)。

固定資産税は全国の9割の自治体が標準税率1.4%を採用しているのに対し、都市計画税は、課税していない、あるいは制限税率0.3%以外の税率を採用する自治体も多いなど多様です。

三大都市圏特定市以外で10a当たりの税額が高い自治体は、1位が静岡県長泉町(26.7万円)次いで2位が豊山町(25.1万円)、3位愛知県幸田町(23.7万円)、4位愛知県扶桑町(23.1万円)等となっている。10位の神奈川県寒川町までが20万円を、31位の蒲郡市までが15万円を超えています。さらにランク外とはなりますが、89位までが10万円以上となっています。

また、平均負担水準がすでに1.0前後と高いところでは、ほぼ本則課税のため宅地としての評価額がそのまま反映され、同じ市町村内であっても税額は大きな差が生じており、今後の調整措置による固定資産税額の上昇はほぼ無いと見込まれます。

一方、負担水準が低い場合は、本則課税になるまでしばらく税額は上昇を続けます。仮に本則課税とした場合の10a当たりの固定資産税と都市計画税の合計額を見ると、1位の埼玉県三芳町(60.9万円、現在の3.2倍)をはじめ、3位の神奈川県葉山町(30.8万円、同1.9倍)や11位の愛知県東郷町(26.2万円、同2.6倍)等では、現在の税額に比べて将来大幅に上昇することとなります。

表 5  市街化区域農地の10a当たり固定資産税等額ランキング(令和4年度)

《三大都市圏特定市以外(税額上位100市町村)》

順位団体CD都道府県市町村名市街化区域
農地面積
(ha)
固定資産税
平均負担水準
10a当たり
固定資産税
+都市計画税
(円/10a)
1223425静岡県長泉町44.30.78267,175
2233421愛知県豊山町26.10.89251,148
3235016愛知県幸田町21.80.92237,027
4233625愛知県扶桑町30.10.87230,934
5222062静岡県三島市42.30.95217,526
6263036京都府大山崎町13.40.89214,671
7232017愛知県豊橋市202.60.81213,482
8113247埼玉県三芳町15.00.35210,881
9143669神奈川県開成町22.00.89203,803
10143219神奈川県寒川町44.80.68202,992
11402192福岡県大野城市28.00.74189,570
12223417静岡県清水町24.40.68187,924
13143634神奈川県松田町19.50.90182,184
14222038静岡県沼津市140.40.94177,747
15402184福岡県春日市17.50.73176,915
16234257愛知県蟹江町12.20.94176,386
17143413神奈川県大磯町26.60.83176,381
18143421神奈川県二宮町14.70.95174,247
19232076愛知県豊川市244.80.92170,344
20133035東京都瑞穂町39.40.64170,157
21282031兵庫県明石市174.30.97170,045
22283827兵庫県播磨町29.50.96167,880
23222143静岡県藤枝市66.81.00165,117
24343021広島県府中町10.70.78164,403
25143014神奈川県葉山町14.80.61162,713
26401307福岡県福岡市213.90.67161,390
27114421埼玉県宮代町16.40.89160,252
28472018沖縄県那覇市13.90.76156,345
2962014山形県山形市127.80.82155,815
30172014石川県金沢市374.70.88154,759
31232149愛知県蒲郡市134.80.97152,062
32234249愛知県大治町100.10.99148,042
33133051東京都日の出町29.50.74147,741
34114651埼玉県松伏町8.70.88147,071
35252085滋賀県栗東市60.40.89146,397
36233617愛知県大口町13.90.88140,083
3742072宮城県名取市28.90.69137,728
38234478愛知県武豊町41.80.73137,547
39222208静岡県裾野市46.90.95137,144
40222151静岡県御殿場市57.90.82136,934
41182010福井県福井市175.60.97135,862
42273414大阪府忠岡町15.41.02134,527
43212024岐阜県大垣市290.70.94133,437
44143626神奈川県大井町33.20.76131,604
45362018徳島県徳島市276.50.96130,658
46282162兵庫県高砂市77.21.00130,541
47263222京都府久御山町12.20.72130,241
48223255静岡県函南町19.31.01129,840
49212016岐阜県岐阜市939.70.94129,548
50234419愛知県阿久比町35.30.98128,607
51114642埼玉県杉戸町13.10.87128,023
52342131広島県廿日市市99.70.86127,588
53234427愛知県東浦町30.70.59125,979
54331007岡山県岡山市436.60.94124,020
5562103山形県天童市17.00.92123,107
56143618神奈川県中井町14.20.95122,129
57341002広島県広島市710.90.81120,865
58283819兵庫県稲美町22.91.01117,897
59102024群馬県高崎市218.60.96117,473
6092011栃木県宇都宮市421.30.78116,613
61252077滋賀県守山市67.01.01116,328
62392014高知県高知市227.50.96115,580
63273015大阪府島本町17.50.55115,359
64222127静岡県焼津市110.01.01114,639
65402036福岡県久留米市143.90.95114,120
66402176福岡県筑紫野市33.00.76113,332
67403491福岡県粕屋町26.00.66113,235
68102016群馬県前橋市185.10.94111,692
69252018滋賀県大津市283.80.87111,119
70403431福岡県志免町14.20.72110,335
71293636奈良県田原本町39.50.85110,183
72144011神奈川県愛川町79.00.94107,510
73343048広島県海田町40.60.90107,491
74282103兵庫県加古川市217.30.99107,242
75172120石川県野々市市100.30.68106,029
76113018埼玉県伊奈町34.70.44105,746
77402214福岡県太宰府市43.00.86105,560
78113263埼玉県毛呂山町18.61.00105,515
7992169栃木県下野市52.60.89105,153
80232211愛知県新城市30.10.99104,938
81202029長野県松本市202.70.80104,451
82222259静岡県伊豆の国市27.61.02103,503
83252069滋賀県草津市58.30.69103,317
84353213山口県和木町12.70.88103,131
8593017栃木県上三川町24.40.99102,482
86462012鹿児島県鹿児島市148.90.89102,471
87233021愛知県東郷町34.10.42101,582
88384011愛媛県松前町13.71.01100,971
89252140滋賀県米原市5.71.01100,302
90113417埼玉県滑川町4.30.9798,498
91392120高知県香美市15.40.9797,948
92282189兵庫県小野市19.60.9696,366
93112186埼玉県深谷市76.70.9695,157
94364029徳島県北島町42.00.9994,679
95402311福岡県那珂川市20.70.9493,947
96222101静岡県富士市366.10.9093,352
97342076広島県福山市788.40.9992,841
9841009宮城県仙台市237.30.5992,074
99342041広島県三原市47.30.9691,865
100202011長野県長野市337.01.0091,539
(資料)総務省「固定資産の価格等の概要調書」、「市町村交付金及び都市計画税に関する調」をもとに筆者作成。

《三大都市圏特定市(税額下位100市町村)》

順位団体CD都道府県市町村名市街化区域
農地面積
(ha)
固定資産税
平均負担水準
10a当たり
固定資産税
+都市計画税
(円/10a)
1292125奈良県宇陀市69.10.9813,426
2122319千葉県印西市14.10.9219,368
3122262千葉県富津市48.00.9819,696
4242144三重県いなべ市13.51.0021,601
5292079奈良県五條市39.71.0332,050
6272281大阪府泉南市32.60.9935,331
7272329大阪府阪南市26.11.0035,619
8292087奈良県御所市24.21.0139,604
9262137京都府南丹市78.00.9840,638
10272132大阪府泉佐野市55.50.9742,886
11292117奈良県葛城市46.61.0244,571
12262145京都府木津川市85.41.0746,096
1382112茨城県常総市38.30.6346,645
1482287茨城県坂東市57.11.0151,683
15292095奈良県生駒市70.81.0057,657
16262064京都府亀岡市43.80.9159,922
17292061奈良県桜井市64.81.0061,747
18122068千葉県木更津市126.10.9462,739
19242055三重県桑名市110.41.0063,349
20272086大阪府貝塚市57.60.9965,102
21112160埼玉県羽生市45.20.9365,306
22292044奈良県天理市69.41.0167,078
2382171茨城県取手市47.01.0171,448
2482082茨城県龍ケ崎市23.31.0172,161
25122114千葉県成田市49.60.9773,626
26122335千葉県富里市23.80.9973,666
27112101埼玉県加須市59.80.9774,354
2882198茨城県牛久市20.41.0875,730
29122084千葉県野田市76.51.0480,951
30122254千葉県君津市26.20.8281,954
31272221大阪府羽曳野市35.21.0086,732
32272302大阪府交野市25.60.7286,817
33232041愛知県瀬戸市41.60.9886,879
34262102京都府八幡市22.10.9787,182
35122297千葉県袖ケ浦市34.40.9587,360
36272167大阪府河内長野市21.50.9890,036
37122190千葉県市原市133.50.9990,302
38112062埼玉県行田市38.41.0290,617
39292036奈良県大和郡山市26.90.9891,579
40272141大阪府富田林市27.90.9891,876
41242021三重県四日市市153.60.9992,126
42272191大阪府和泉市51.30.9897,188
43281000兵庫県神戸市83.50.90100,753
44272311大阪府大阪狭山市11.60.99101,205
45272213大阪府柏原市13.51.00103,102
46292010奈良県奈良市91.40.99103,346
47292028奈良県大和高田市19.10.96104,163
48292109奈良県香芝市94.10.95104,265
49262111京都府京田辺市38.41.29104,705
50272027大阪府岸和田市75.30.98106,565
5182350茨城県つくばみらい市26.21.04108,009
52122327千葉県白井市10.40.80114,021
53232327愛知県愛西市18.41.01114,849
54122122千葉県佐倉市27.21.00119,193
55232165愛知県常滑市38.90.99120,802
56282197兵庫県三田市7.31.01123,718
57292052奈良県橿原市56.00.99126,706
58232351愛知県弥富市33.21.00129,490
59282171兵庫県川西市15.10.99129,919
60221309静岡県浜松市267.01.01131,751
61272175大阪府松原市21.90.93135,593
62112402埼玉県幸手市8.21.00136,029
63272264大阪府藤井寺市10.30.98137,585
64221007静岡県静岡市236.31.01138,117
65122289千葉県四街道市14.80.94139,417
66232131愛知県西尾市134.30.96141,955
67232246愛知県知多市62.00.93143,847
68112020埼玉県熊谷市90.31.00146,916
69112437埼玉県吉川市40.60.99152,399
70142018神奈川県横須賀市32.51.04158,460
71112321埼玉県久喜市52.20.99163,566
72112178埼玉県鴻巣市53.50.97164,231
73232378愛知県あま市108.11.01164,725
74232157愛知県犬山市38.00.98165,953
75262072京都府城陽市13.40.97167,588
76142107神奈川県三浦市19.11.09167,885
77272124大阪府八尾市40.90.96170,448
78232084愛知県津島市20.81.00172,325
79272116大阪府茨木市53.90.95174,111
80272108大阪府枚方市40.20.98177,788
81232033愛知県一宮市110.60.99182,555
82122220千葉県我孫子市33.61.02183,064
83272299大阪府四條畷市4.90.91189,269
84112127埼玉県東松山市14.90.96189,437
85112429埼玉県日高市18.70.93190,289
86271403大阪府堺市56.40.94191,926
87232190愛知県小牧市74.30.98192,018
88142115神奈川県秦野市84.91.01192,724
89272183大阪府大東市12.21.01193,429
90122173千葉県柏市116.50.97201,130
91272230大阪府門真市16.00.95203,236
92142174神奈川県南足柄市20.01.04204,738
93272159大阪府寝屋川市17.00.95214,243
94232092愛知県碧南市44.00.98214,533
95272256大阪府高石市3.90.99217,682
96112411埼玉県鶴ヶ島市22.81.00222,019
97121002千葉県千葉市106.10.98223,601
98132055東京都青梅市42.50.97228,723
99272272大阪府東大阪市41.10.96230,438
100232301愛知県日進市27.60.79230,710
(資料)総務省「固定資産の価格等の概要調書」、「市町村交付金及び都市計画税に関する調」をもとに筆者作成。

3-3. 地方圏の上位都市と三大都市圏特定市下位では逆転現象も

10a当たり固定資産税等の額について、全般的には三大都市圏特定市が高額であるものの、特定市のうち低い順から見ると(表5・右表)、13位の茨城県常総市までが5万円未満で、42位の大阪府和泉市までが10万円未満となっています。
つまり、三大都市圏特定市の下位42位までと地方圏の上位89位までとが、立場が逆転してしまっていると言えます。

三大都市圏特定市とは、昭和30年代の大都市圏における人口集中や過密問題を背景として、大都市圏整備法に基づき計画的な整備を図るための政策区域です。時代は大きく変化し、人口減少を背景として都市政策においては集約型都市構造への転換を図り、市街化区域農地のあり方を見直した今もなお、市街化区域農地の税制や生産緑地制度の有無といった違いを、三大都市圏特定市か否かで分け続けていることの根拠は薄れていると思われます。

3-4. 固定資産税の上昇が止まっても都市計画税の上昇はしばらく続く

固定資産税の特例率(軽減措置)は1/3であるのに対して、都市計画税の特例率は2/3であるため、負担水準が固定資産税よりも低くなることから、固定資産税の上昇が止まっても、その後もしばらく都市計画税は上昇し続けます。

令和4年の都市計画税の負担水準は0.713となっており、負担水準が0.8未満の農地が約3割を占めています(図2)。

4.地方圏の都市農地保全のための生産緑地制度と線引き廃止

市街化区域農地の多くが、宅地並みの高い固定資産税等が課せられる状況にあって、持続可能な都市農業を実現にあたっては、固定資産税等を農地課税に引き下げて負担を軽減できる生産緑地制度が有効と考えられます。

令和4年度には岐阜市と宇都宮市において、生産緑地制度が導入されましたが、全国で生産緑地制度導入実績は16市町村にとどまっています。平成26年に都市計画運用指針においても「地方圏での生産緑地制度導入が望ましい」とされましたが、それ以降も制度導入は6市町のみにとどまっています。

一方で、そもそも市街化区域であるべきなのか、線引き制度についても見直しが必要だと考えます。我が国の人口は平成20年をピークに減少に転じ、今後人口減少は加速し、宅地化圧力が減退し、多くの市街地が縮退していくことがほぼ確実であり、無秩序な市街地拡大の抑制が目的であった線引き制度は時代にそぐわないのではないでしょうか。

区域区分(市街化区域の線引き)するか否かについては、平成12年の都市計画法改正以降、三大都市圏や政令指定都市を除いて、地域の実情に応じて都道府県が判断するとされており、平成16年に香川県が全県で線引きを廃止したのをはじめ、全国で約20市町が線引きを廃止しています。

さらに、令和5年2月には、松江市が線引き廃止の方針を打ち出しました。線引きが廃止されれば、市街化区域内であった農地は全て農地課税となります。

生産緑地制度は市町村、区域区分は都道府県と、いずれも都市計画の権限を持つ地方自治体が判断するものであり、その実現は容易ではないものの、地方圏において持続可能な都市農業を実現するためには、市街化区域農地の税負担を大幅軽減する施策の実施を急ぐ必要があります。

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