農家の相続・事業承継 資産の承継方法別税務のポイント

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農家が相続や事業承継をする際に、農業関係資産を承継者に引き継ぎますが、資産の種類や引き継ぎ方法によって、かかる税目や課税額が大きく変わる場合があります。

円滑に農業関係資産を承継者に引き継ぐためにも、これらの仕組みを踏まえて、資産の種類別に適切な方法を選択することが大切です。税制の仕組みは非常に複雑ですので、税理士等専門家の意見を聞いて判断した方がよいでしょう。

目次

1.承継資産の分類と課税税目

 農業関係の資産の種類を大別すると、以下の4つに分けられます。

不動産

農地等土地、農業用施設等の建物・構築物

不動産以外の償却資産

農業用機械・設備、果樹、搾乳牛、繁殖牛、繁殖豚 等

棚卸資産

①原材料:肥料、飼料、農薬 等
②仕掛品:未収穫農産物、販売用動物(肉用牛、豚、ブロイラー 等)
③製品:農産物

無形資産

借地権、水利権、販路、栽培・経営技術 等

これらの資産の承継方法は、①使用貸借、②贈与、③相続、④賃貸借、⑤売買の5つの方法があり、親子間承継において通常は、①使用貸借、②贈与、③相続の3つの方法が用いられます。

また、第三者承継において通常は、④賃貸借または⑤売買のいずれかが用いられます。

これらの承継方法別及び資産の種類別に(無形資産を除く)、関係する税制について、次表に整理しました。

《資産別主な承継方法及び課税税目》

資産の種類承継関係承継方法移譲者への課税税目承継者への課税税目
農業用不動産

● 農地等土地
● 建物・構築物
親子使用貸借固定資産税● 所得税(経費算入)
贈与● 贈与税
● 不動産取得税
● 登録免許税
● 固定資産税
相続● 相続税
● 登録免許税
● 固定資産税
親子(生計別)
第三者
賃貸借● 所得税(不動産所得)
● 固定資産税
● 所得税(経費算入)
第三者売買● 所得税(譲渡所得)
● 消費税(建物)
● 登録免許税
● 不動産取得税
● 固定資産税
● 消費税(建物)
不動産以外の償却資産

● 農業用機械
● 果樹
● 家畜
親子使用貸借● 固定資産税● 所得税(経費算入)
贈与● 贈与税
● 固定資産税(注)
相続● 相続税
● 固定資産税(注)
親子
第三者
売買● 所得税(譲渡所得)
● 消費税(課税売上)
● 固定資産税(注)
● 消費税(課税仕入)
第三者賃貸借● 所得税(雑所得)
● 固定資産税
● 所得税
棚卸資産

● 肥料・飼料・農薬
親子贈与● 贈与税
相続● 相続税
親子
第三者
売買● 所得税(農業所得)
● 消費税(課税売上)
● 消費税(課税仕入)
預貯金親子贈与● 贈与税
相続● 相続税
(注)償却資産のうち、自動車税・軽自動車税の課税対象となるもの(トラクター、トラック等)、家畜及び果樹は、申告の必要がなく、固定資産税は課税されない。

2.農業用不動産

1)親子間の使用貸借

農業用の不動産について、親子間の相続前の事業承継の場合、親の所有のままとし、使用貸借による承継が最も多いと思われます。

使用貸借は原則として対価の授受はないものですが、建物や構築物を目的とした土地の場合は、実質的にその土地の固定資産税相当を対価として金銭の授受があったとしても、使用貸借として取り扱われます。
ただし、実質的に賃貸借料の授受があった場合は、その土地の貸付けは賃貸借として扱われます。

さらに承継者から移譲者への権利金の支払いがない場合、若しくは権利金に代わる相当の地代等の支払いがない場合は、権利金相当額が贈与とみなされ、贈与税の課税対象となりますので、注意が必要です。

税務については、使用貸借の時点では課税されず、後に贈与または相続によって承継者が取得した時に、贈与税または相続税が課税されます。

ただし、子が農地や建物を使用貸借して得た農業所得には所得税が課税され、親と子が同一生計の場合には、農地や建物の固定資産税や減価償却費等を子の農業所得の必要経費に算入します。

2)親子間の賃貸借

親と子が同一生計でない場合は、上記の特例を活用できないことから、有償の賃貸借とすることで、子が支払う賃借料等の経費を子の農業所得の必要経費に参入することができます。

この場合、貸し主の親が得る賃借料は不動産所得であり、所得税が課せられる。また、所有者は親のままであるため、固定資産税は引き続き親に課せられ、親の不動産所得の必要経費に算入します。

《使用貸借と賃貸借の比較》

契約資産に係る経費の帰属対価の授受対価の考え方
使用貸借借り手原則なし土地の固定資産税相当額であれば可
賃貸借貸し手あり権利金または相当の地代を時価ベースで計算

3)親子間の贈与

農業用の不動産について、贈与により所有権移転する場合は、贈与税が課税されますが、暦年贈与相続時精算課税、あるいは農地の生前一括贈与による納税猶予の適用を受けるなどの選択肢があります。

暦年贈与は、110万円基礎控除の制度を活用して、毎年少しずつ贈与することで、相続税の節税効果もありますが、不動産は分割しにくいことや、基礎控除額を大きく超える価額となることも多いため、節税効果は限定的となる。

農地のみを対象とした農地の生前一括贈与は、納税猶予の適用を受けることができるため、節税効果及び農地保全効果は大きいと言えます。ただし、相続税の納税猶予が一部の農地についても適用可能なのに対して、贈与税の納税猶予の場合は、農地の全てを1人の推定相続人の1人である農業後継者に贈与する必要があります。

不動産を贈与によって取得した場合には、贈与税のほか、不動産取得税(地方税)や、不動産登記の際に登録免許税が課税されます。

4)相続

相続発生前に事業承継をしていない場合や、使用貸借や賃貸借していた場合に、相続発生後、相続によって相続財産である農業用の不動産を相続します。その場合は相続税の課税対象となりますが、農地については納税猶予の適用が可能であり、適用すればその節税効果及び農地保全効果は大きい。

5)第三者承継における賃貸借又は売買による承継

第三者承継の農業用不動産の承継は、通常、賃貸借又は売買のいずれかとなります。

承継者が新規参入者の場合など、承継者の経済的負担を軽減する意味では賃貸借が望ましいが、その後の相続発生による不安定な要素を考えると、承継者に資金がある場合や移譲者が売却を希望している場合には、売買を選択することとなります。

賃貸借の場合の税務は、親子の場合と同じです。
売買の場合の税務は、売り主が得た売却益が譲渡所得であり、所得税が課税されます。さらに、建物の場合は消費税も課税されます。一方、買い主は資産計上し、その減価償却費を経費算入します。

3.不動産以外の償却資産

1)親子間の使用貸借と贈与の留保

不動産以外の償却資産について、親子間で実態上使用貸借をした場合にも、税務上は原則として「贈与があったもの」としてみなされます

ただし、棚卸資産及び果樹以外の農業用財産については、特に書面での申し出により贈与を留保する」ことができる。これにより、贈与税の課税対象とならず、親と子が同一生計の場合には、償却資産の減価償却費等を子の農業所得の必要経費に算入することができます。

なお、贈与の留保の手続きとして、「不動産以外の農業用財産の贈与を留保する旨の申出書」という書類を提出する必要がありますが、この様式は国税庁のホームページに掲載されておらず、税務署によってはこの方法を認めないこともあるらしいので、税務署に相談のうえ対応する必要があります。

2)親子間の贈与

不動産以外の農業用財産は原則として、贈与があったものとみなされます。また、償却資産のうち果樹は、贈与の留保が認められていません。よって、受贈者には贈与税が課税され、暦年贈与または相続時精算課税のいずれかを選択できます。なお、贈与価額は原則として時価で評価されます。

また、承継者の所有となるため、固定資産税の課税対象であり、自動車税・軽自動車税の対象となるトラクター・トラック並びに家畜及び果樹を除く償却資産について、市町村に償却資産の申告をする必要があります。

負担付贈与

贈与する償却資産に借入金等債務が残っている場合は、その負債も合わせた「負担付贈与」として、贈与財産の価額から負債のうちの負担額を控除した価額が、贈与税の課税対象となります。

この場合、贈与税の基礎控除額があるため、その資産と債務の差額が110万円以下であれば、贈与税が課税されません。

3)親子間の売買

親子間で、農機具等の償却資産を売買する場合は、時価をもって売却価格(対価)とします。著しく低い対価で売買すると、買い手(承継者)に対して、時価と買取り価格の差額に贈与税が課せられます。

時価とは売買実例価格、精通者意見価格等とされており、原則として第三者に見積もりをしてもらう必要があります。

圧縮記帳した場合の注意

償却資産の売買において、圧縮記帳している場合に注意が必要となる。

①譲渡直前簿価と税務上簿価が一致しているケース

まず、補助金等を受けておらず圧縮記帳していない場合、譲渡直前簿価と税務上簿価が一致しているはずです。

償却資産を譲渡する場合の譲渡価格は、譲渡時の時価とされ、売買実例価格等が明らかでない場合は、譲渡直前の帳簿価格相当額を時価とみなして譲渡することが認められています。時価と帳簿価格が同じであれば、移譲者と承継者のいずれにも課税関係は生じません

②譲渡直前価格と税務上価格が一致しないケース

過去に補助金を受け圧縮記帳している等の理由で、譲渡直前価格と税務上価格が一致しない場合は、税務上注意が必要となる。

譲渡価格が時価とみなされるためには、圧縮記帳をしなかったものとして、定率法により計算した帳簿価格相当額を算定する必要があります。

圧縮記帳しない時価で譲渡したときは、圧縮記帳による帳簿価格との差額が移譲者の譲渡所得となります。

一方、圧縮記帳した帳簿価格で譲渡したときは、その差額分が、贈与があったとみなされ贈与税の課税対象となります。贈与税は110万円の基礎控除があるため、これを活用して償却資産を複数年に渡って譲渡することで、節税できる場合があります。

消費税の課税売上と課税仕入

親(移譲者)が消費税の課税事業者の場合、償却資産の譲渡に対して課税売上として消費税がかかります。

償却資産は一度に全部譲渡する必要はありませんので、使用貸借と併用し、複数年に渡って譲渡することで、消費税の負担を軽減できます。また、消費税の免税事業者であれば、課税されません。

一方、子(承継者)が事業開始時に、課税事業者になることを選択した場合には、課税事業者となり、譲渡された償却資産は課税仕入れとなるため、仕入税額控除を受けることができるため、課税売上を上回るときは消費税が還付される。

ただし、子(承継者)は、そのままでは事業開始後2年間は免税事業者であるため、「消費税課税事業者選択届出書」を提出し、消費税の課税事業者となる必要がある。

なお、課税事業者になるか否かの判断については、インボイス制度との関係と併せて検討した方がよいでしょう。

4)相続

相続発生前に、事業承継をしていない場合や、使用貸借や賃貸借していた場合に、相続発生後相続によって、相続財産である不動産以外の償却資産についても相続した時は、これには相続税が課税されます。

5)第三者承継における賃貸借又は売買による承継

不動産以外の償却資産についても、第三者承継の場合は、通常、賃貸借又は売買のいずれかとなります。

賃貸借の場合、貸し主が得る賃借料は雑所得として、所得税が課せられます。また、所有者は親のままであるため、固定資産税は引き続き親に課せられ、親の所得の必要経費にできます。

売買の場合は、売り手が得た売却益が譲渡所得として所得税が課税され、消費税も課税される。一方、買い手は資産計上し、その減価償却費を経費算入します。

4.棚卸資産

1)親子間の贈与

棚卸資産については、使用貸借や賃貸借をすることが出来ないため、通常は贈与による承継となり、受贈者に贈与税が課税されます。これも、暦年課税または相続時精算課税のいずれかを選択できます。

なお、棚卸資産の贈与価額は、以下のとおりです。

  • 原材料:仕入額及び取引費用
  • 仕掛品:原材料の仕入額、取引費用及び加工費用
  • 製品:販売価格から適正利潤及び予定経費を控除した金額

2)親子間の売買

肉用牛や肉豚など棚卸資産が多額で贈与税がかかる場合、有償で売買した方が節税として有利になる場合もあります。
親(移譲者)が消費税の課税事業者の場合、棚卸資産の売却に対して課税売上として消費税がかかります。

一方、子(承継者)が事業開始時に、「課税事業者」になることを選択した場合には課税事業者となり、購入した棚卸資産は課税仕入れとなるため、仕入税額控除を受けることができ、課税売上を上回るときは消費税が還付される。

3)相続

相続発生前に、事業承継をしていない場合や、使用貸借や賃貸借していた場合に、相続発生後、相続によって棚卸資産についても相続財産として相続した時は、これには相続税が課税されます。

4)第三者承継における賃貸借又は売買による承継

棚卸資産について、第三者承継の場合は、通常売買となります。
売り主である移譲者には、棚卸資産の売却に対して、所得税と消費税が課税される。

買い主である承継者にとっては、棚卸資産の購入費用は所得税の必要経費となります。また、消費税の課税仕入となるため、この価額が多額となる場合は、課税事業者になることを選択した場合には、課税売上を上回るときは、消費税が還付されます。

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