都市農業の価値が再評価され、都市農地はあるべきものへと転換

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都市農業が営まれている市街化区域については、都市計画法において「宅地化すべき農地」として位置付けられてきましたが、2015年の都市農業振興基本法の制定、2016年の「都市農業振興基本計画」の閣議決定によって、「都市環境を形成する上で「あるべき農地」へと、位置づけが大きく転換されました。

農業政策及び都市政策双方において、都市農業は再評価され、都市農業振興に向けた施策の方向性が打ち出されました。

目次

都市農業振興基本法と基本計画

都市農業を評価すると法律に明記したものが、2015年に制定された都市農業振興基本法となります。この法律で、都市農業とは「市街地及びその周辺の地域で営まれている農業」と定義され、その中心となるのは、市街化区域内の農地です。

都市農業振興基本法制定、都市農業振興基本計画が決定され、都市農業の安定的な継続と多様な機能の発揮のための総合的な施策を推進するとされました。

都市農業振興基本法(2015年制定)

目的

基本理念等を定めることにより、都市農業の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進

基本理念

  • 都市農業の有する機能の適切・十分な発揮とこれによる都市の農地の有効活用・適正保全
  • 人口減少社会等を踏まえた良好な市街地形成における農との共存
  • 都市住民をはじめとする国民の都市農業の有する機能等の理解

都市農業の多様な機能

都市農業は新鮮で安全な農産物の供給をはじめとして、農業体験・交流、防災など、多様な機能の評価が高まっている。

① 農産物を供給する機能

都市住民に地元産の新鮮な農産物を供給する機能

② 防災の機能

災害時における延焼の防止や地震時における避難場所、仮設住宅建設用地等のため防災空間としての機能

③ 良好な景観の形成の機能

緑地空間や水辺空間を提供し、都市住民の生活に「やすらぎ」や「潤い」をもたらす機能

④ 国土・環境の保全の機能

都市の緑として、雨水の貯留・浸透、地下水の涵養、生物多様性の保全等かんに資する機能

⑤ 農作業体験・学習・交流の場を提供する機能

都市住民や学童の農業体験・学習の場及び生産者と都市住民の交流の場を提供する機能

⑥ 農業に対する理解の醸成の機能

身近に存在する都市農業を通じて、都市住民の農業や農業政策に対する理解を醸成する機能

都市農業振興基本計画で都市農地は「あるべきもの」へ

都市農業振興基本法に基づき、2016年に都市農業振興基本計画が閣議決定されました。ここでは、農業政策および都市政策双方から再評価され、都市農地については、従来の「宅地化すべきもの」から「あるべきもの」へと方向性の大転換が行われました。

農業政策上の再評価

  • 都市農業は、食料自給率の一翼を担う
  • 都市農業は都市住民の多様なニーズに応える
  • 農業に対する国民的理解を醸成する身近なPR拠点

都市政策上の再評価

  • 都市農地を貴重な緑地として明確に位置付け
  • 都市農業を都市の重要な産業として位置付け
  • 農地が適切に管理されることが持続的な都市経営のために重要

都市農業振興に関する新たな施策の方向性

  • 担い手の確保
  • 土地の確保:都市農地を「宅地化すべきもの」⇒「あるべきもの」へと転換し、計画的に保全、コンパクトシティとの連携
  • 農業施策の本格的展開

都市計画における都市農地の位置付け(都市計画運用指針)

国土交通省は「都市計画運用指針」を見直し、都市農地を適正に保全するとし、地方圏での生産緑地導入、三大都市圏特定市での生産緑地追加指定を推進するとしました。

区域区分の見直しの考え方

市街化区域は、その区域内の全ての農地等が宅地化されることを前提とするものではなく将来にわたり保全することが適当な農地等については、生産緑地地区に指定することや、当該農地等を含む区域について田園住居地域や地区計画を定めることが望ましい。

生産緑地法「都市における農地等の適正な保全」

農業経営の安定化が生産緑地の保全に資すること、都市農地の貸借の円滑化に関する法律による貸借の対象が生産緑地地区の区域内の農地に限定されていることを踏まえ、都市農業振興施策と十分連携し、生産緑地制度の運用を行うことが望ましい。

生産緑地地区は、雨水の貯留浸透等のグリーンインフラとしての機能を有する農地等の保全や市街地の無秩序な拡大の抑制を図るために積極的に指定することが望ましい。

生産緑地地区の決定・変更

三大都市圏特定市

三大都市圏の特定市の市街化区域農地等に係る固定資産税等の課税の適正化と併せた生産緑地地区に関する都市計画決定については、平成4年末に完了している。
一方で、その後の人口減少・高齢化の進行や、緑地の減少を踏まえ、身近な緑地である農地を保全し、良好な都市環境を形成するため、生産緑地地区を追加で定めることを検討すべきである

地方圏

三大都市圏の特定市以外の都市においても、本制度の趣旨やコンパクトなまちづくりを進める上で市街化区域農地を保全する必要性が高まっていることを踏まえ、新たに生産緑地地区を定めることが望ましい。

人口減少と集約型都市構造への転換

都市農業があらためて評価される背景として、少子高齢化によって、日本はすでに人口減少が始まっていて、このまま出生率が大きく改善しなければ、将来大幅な人口減となります。

(資料)国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」

このことに起因する様々な課題に対応するため、都市政策は、市街地をコンパクト化して都市の持続性を確保する集約型都市構造に大きく転換しました。

全国の各自治体で「立地適正化計画」というものを策定し、市街化区域内にさらに「居住誘導区域」に居住を誘導し、人口密度を維持して都市機能の維持を図る、というものです。

宅地需要が減ることで、空き家・空き地が増加しつつあり、社会問題にもなっています。そこで、市街地内の農地保全が適切な土地利用として見直され、居住誘導区域外においては、緑地や農地としての活用や、農業振興施策等との連携が重要とされています。

グリーンインフラとしての都市農地

グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能な魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組みのこと。2019年に「グリーンインフラ推進戦略」(国交省)を公表しています。

気候変動、人口減少、地域コミュニティの消失等、様々な地域課題の同時解決にアプローチする手法だとし、都市農地は、グリーンインフラの重要な構成要素であり、積極的に保全・活用したまちづくりを進めるとしています。

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