家族に農業後継者が不在の場合は、第三者の承継者の確保と育成等の準備をしておく必要があります。農業経営資産は有形の資産だけでなく、栽培技術や販路などの農業経営ノウハウを含めて、承継することが望ましいと言えます。
承継する農業経営資産の整理にあたっては、どの農業経営資産をどのような形で承継するか、特に第三者承継の場合はより明確にしておく必要があります。
さらに、相続に備えて、相続人が農業を継がないケースとなりますので、あらかじめ親子の話し合いを通じて、意思疎通を図っておくことも重要です。
(1)認定新規就農者の申請
新規就農する第三者へ経営移譲する場合、年齢等の条件が該当する場合は、青年等就農計画認定の申請を行うことで、農業次世代人材投資資金(旧青年就農給付金)等の支援を受けることができます。
青年等就農計画制度
青年等就農計画制度は、新たに農業を始める方が作成する青年等就農計画を市町村が認定し、その計画に沿って農業を営む認定新規就農計画に対して、重点的に支援措置を講ずるものです。
対象者は、新たに農業経営を営もうとする青年等で、原則18歳以上45歳未満。認定農業者は含みません。
この認定を受けた新規就農者は、経営開始資金、新規就農者に対する無利子資金制度(青年等就農資金)、農地利用効率化等支援交付金、経営所得安定対策、農業経営基盤強化準備金等の支援施策を受けることができます。
区分 | 書類名 ー添付書類等 | 提出先 | 様式 |
---|---|---|---|
青年等就農計画の申請 | 青年等就農計画認定申請書 | 市町村 | ▶ |
経営開始資金 (農業次世代人材投資資金)の申請 | 経営開始資金申請追加資料 | 市町村 | ▶ |
ー収支計画 | 〇 | ||
ー履歴書 | 〇 | ||
ー離職票(原本) | |||
ー経営を開始した時期を証明する書類 | |||
ー経営を承継する場合は、従事していた期間が5年以内である事を証明する書類 | |||
ー農地及び主要な農業機械・施設の一覧、農地の権利設定の状況が確認できる書類及び農業機械・施設を自ら所有し、又は借りていることが確認できる書類 | |||
ー通帳(写し) | |||
ー前年の世帯全員の所得を証明する書類 | |||
ー身分を証明する書類 |
(2)事業の廃止・開始手続き
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ。
(3)従業員の労務手続き
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ。
(4)農地の権利移動と登記
①農地の権利移動
移譲者から第三者の承継者に農地を移譲する場合、賃貸借または売買のいずれかとなります。
賃貸借の場合は、農地中間管理事業を活用すれば、条件を満たせば補助金を受けることができます。
売買の場合、利用権設定等促進事業により行えば、移譲者には譲渡所得税控除が、承継者には不動産取得税や登録免許税の軽減等のメリットがあります。
農地中間管理機構の特例事業では、中間管理機構が移譲者から農地を買い入れて、当面は承継者に貸し付けて、農業経営が安定した後に売り渡すという方法もあります。
また、生産緑地においても、都市農地貸借円滑化法が制定され、農地法による法定更新が適用されず、相続税納税猶予が適用される新たな貸借の仕組みがあります。この適用を受けるためには、借り手が事業計画書を提出し、市区町村長から認定を受ける必要があります。
なお、提出期日については、それぞれの受付機関で定められているので、確認のうえ提出する必要があります。
区分 | 移譲者 | 承継者 | 書類名 ー添付書類等 | 提出先 | |
---|---|---|---|---|---|
農地中間管理事業による利用権設定 | 賃貸借 | 〇 | 貸付希望申出書 | 農地中間管理機構・市町村 | |
〇 | 借受希望申出書 | ||||
利用権設定等促進事業による利用権設定 | 賃貸借 | 〇 | 利用権設定等申出書 | 市町村 | |
売買 | 〇 | 所有権移転申出書 | |||
ー土地の登記事項証明書 | |||||
ー公図(写し) | |||||
〇 | 〇 | ー住民票 | |||
農地中間管理機構の特例事業による売買 | 売買 | 〇 | あっせん申出書 | 農業委員会 | |
〇 | 譲受申込書 | ||||
都市農地貸借円滑化法による認定都市農地貸付け | 賃貸借 | 〇 | 事業計画書 | 市区町村 | |
〇 | ー賃貸借契約書 | ||||
農地3条許可による権利移動 | 共通 | 〇 | 農地法3条の規定による許可申請書 | 農業委員会 | |
ー登記事項証明書 | |||||
ー公図の写し | |||||
ー位置図(住宅地図の写し等) | |||||
〇 | ー作付計画書(営農計画書) | ||||
賃貸借 | 〇 | ー農地賃貸借契約書 | |||
売買 | 〇 | ー売買契約書 |
②土地・建物の登記
第三者への移譲の場合、譲渡によって登記が必要な土地・建物は、子弟への移譲と比べると限定的と考えられますが、手続きについては、「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」とほぼ同じです。
第三者への経営移譲の際に、売買により農地の所有権を移転する場合は、上記の農地の権利移動の手続きに続いて、法務局で農地の登記申請をすることとなります。
また、利用権設等促進事業により所有権移転する場合は、農業委員会に登記を委嘱することもできます。
区分 | 移譲者 | 承継者 | 書類名 ー添付書類等 | 発行場所等 | 提出先 | 様式 | 電子申請 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
所有権移転登記 | 〇 | 登記申請書 | 法務局 | 〇 | 〇 | ||
〇 | ー登記済証(権利証)の原本 | ||||||
〇 | ー売買契約書 | ||||||
ー委任状(代理人の場合) | |||||||
〇 | ー農地法3条許可証 | 農業委員会 | |||||
〇 | 〇 | ー印鑑証明書 | 市町村 | ||||
〇 | 〇 | ー住民票(住民票コードを記載すれば不要) | 市町村 |
◇登記・供託オンライン申請システム
(5)農業経営に係わる名義変更等
第三者への移譲の場合は、子弟への移譲と比べると、名義変更するものは限定的となると思われます。
①JA組合員
まず、出資金については、有償で譲渡し、組合員に加入する形となる。
また、部会や共済、購買等については、新規加入する。
手続きについては、「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」とほぼ同じ。
②農業者年金
農業者年金の手続きについては、「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」とほぼ同じ。
ただし、経営移譲年金の請求の添付書類として、第三者移譲用の「経営移譲カード」を提出する。
③農業共済その他
農業共済その他の名義変更についても、「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」とほぼ同じ。
(6)移譲者の所得税・消費税申告等
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ。
(7)交付金の申請
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ。
(8)承継者の所得税申告
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ(P25参照)。
(9)消費税の手続き・申告
「1-1.農業後継者(子弟)への経営承継」と同じ(P30参照)。
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