家族経営の事業承継支援の必要性とあり方(JA向け)

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目次

1.事業承継支援の必要性

世代交代の加速と次世代対策

JAの正組合員のうち、「第一世代組合員」(75歳以上の正組合員)は、約152万人(令和2年度全JA調査)で、正組合員の約41%を占めています。これまでJAの組織及び事業を支えてきた彼らの多くが、今後10年間で次々と農業をリタイヤしていくこととなるのです。彼らの農業経営を次世代の後継者に引き継ぎ、地域農業と組合員のくらしを守り、地域の農業者及び農地、農業生産、JAの事業利用の減少を抑制するための取り組みに力を入れなければなりません。

これまでは、事業承継はプライベートなことであるがゆえに、農家任せにしてJAはあまり立ち入らない傾向がありました。しかし、親子であるが故に、引き継ぐべき様々なものが曖昧になってしまいがちで、確実な事業承継ができないことも多いかと思います。

JAが第三者として、親子の話し合いのきっかけを作り、中に入って、事業承継計画を作り、その遂行を支援することが、事業承継を確実に進めることにつながります。
また、近年農業経営を個人事業から法人化するケースが増えてきたとはいえ、現在のJA組合員の圧倒的多数を個人事業としての家族経営が占めており、事業承継後についても個人事業を継続するケースが大半を占めると見ていいと思います。本手引きは個人事業の家族経営を対象とした事業承継支援を扱います。

事業承継には煩雑な手続きが伴う

事業承継の遂行に伴って、多岐にわたる煩雑な“手続き”も必要となり、これを円滑に進めるよう支援することも、JAに期待される役割です。本書では、特にこの“手続き”に焦点を絞り、必要事項や注意点等を整理しました。

個人事業の特徴として、親子で農業経営を引き継ぐとしても、基本的には別の経営体として扱われるため、手続きが名義変更だけでは済まずに煩雑になることも多いのです。

事業承継において承継するものは、権利関係や農業技術、経営ノウハウなどの目に見えない無形資産と、農地や農業機械、農業施設、棚卸資産、資金、負債などの有形資産があります。基本的に目に見える有形資産の承継や権利関係等の無形資産の承継に“手続き”が必要となりますので、これらを対象として整理しています。

事業承継の際に必要な手続きは広範にわたっており、かつ提出期限までの期間が短いものが多いのです。さらに、非常に煩雑であるため、提出期限を過ぎてしまうことや、手続きを怠ってしまうことも起こり得ます。定められた手続きを期限内に行うことは、必須の義務である場合や、機会損失につながることもあります。そうならないよう、円滑な事業承継の際に必要な手続きを支援する必要があります。

2.事業承継のタイミング

生前の計画的事業承継が望ましい

事業承継のタイミングは、農家によって様々ですが、確実な事業承継を行うためには、計画的に必要な準備期間も含めると、10年程度の余裕を持って、事業承継に向けた話し合いを始め、事業承継計画を作成し、計画的な準備と段階的な承継を進めていくことが望ましいと言えるでしょう。

実際に手続きをとるタイミングは、経営主の名義を変える、あるいは資産の権利や所有の名義を変える時以降が大半ですが、その前の事業承継の計画作成段階で、どのような承継対象資産があり、どのような手続きがいつ必要になるかを、本手引きを参考に概ね整理したうえで、事業承継計画に記載しておくことが望ましいでしょう。必要な手続きには比較的短い期限が設定されているものが多いため、期限間近になって慌てることのないよう、余裕を持って手続きをとってもらいたいと思います。

相続と事業承継同時並行は大きな負担

事業承継のタイミングを、相続まで先延ばしすることは、あまりお勧めできません。まず、タイミングが親の死亡という予定できないものであるため、計画を作成できないか、あるいはスケジュールが非常に曖昧な計画となってしまいます。

また、相続手続きの10ヶ月間は、葬祭関係から親族の話し合い、相続税関係の手続きと、相続人にとって、相続関連のことだけでも心身共に大きな負担となります。農業関係の資産について相続や名義変更は出来るものの、農業技術や経営ノウハウについては、十分に引き継ぐことは難しく、経営に支障が生じかねません

しかしながら、事業承継計画も無いまま事業承継する場合や、すでに相続が発生してしまい、相続と並行して事業承継の手続きをせざるを得ないことが、非常に多いのが現実です。そういう時ほどJAの支援が頼りにされるとも思われます。

あるいは、事業承継の計画を立てていたとしても、思いがけず早く父親が亡くなることもあり得ます。本手引きではそのようなケースも想定して、それぞれに必要な手続きの流れ等について整理しています。

3.事業承継の手続き支援の進め方

事業承継ブックを活用した計画的な支援

計画的な事業承継を進めるために、「事業承継ブック~親子間の話し合いのきっかけに~」(全農)をぜひ活用してください。事業承継ブックには5つのステップが示されています。そのステップ3「経営の実態を把握する」では手続きの必要な承継の対象となる有形資産を把握し、ステップ4「事業承継タスクを整理する」では手続きの必要なタスクを整理し、ステップ5「事業承継計画を作成する」では事業承継に必要な手続きについても記載することが必要となります。これらの手続き関係については、本手引きをご活用下さい。

事業承継計画を作成した後は、事業承継の遂行段階となり、JAは計画の進捗フォローをしつつ、実際に手続きをとる際の支援を行います。

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事業承継支援への取り組み | JA全農 JA全農とJAによる、担い手の課題に応えるコーディネートチーム、「TAC」の事業承継支援の取り組みのご紹介です。

承継パターンごとの全体の流れを押さえる

事業承継に必要な手続きは多岐にわたります。JAが事業承継の手続きを支援するにあたり、JA職員がこれら全ての手続きを詳しく把握することや、書類を作成することを想定しているわけではありません。大切なのは、支援する対象者の承継パターンごとに、全体の流れを押さえて、必要な手続きは何があり、その期限と届出先を確認し、手続きの漏れや遅れがないように、適切なタイミングで組合員に案内することです。

本書では、事業承継のタイミングに加え、第三者承継も加えて、5つのパターンを設定し、それぞれの手続きの期限を踏まえたフロー図を示しています。そこでは、「いつまでに」「なにを」「どこに」手続きするかがわかるように整理しました。

実際の手続き支援においても、このフロー図を参考にチェックしながら、簡易なものについては承継者など本人が、専門的な書類についてはそれぞれの専門家に依頼するなどにより、円滑な手続きを進めることを想定しています。

専門家との連携

本手引きに掲載している手続きは非常に広範囲にわたっており、さらに注意点等も記載しているものの、どれがベストの選択肢なのかは容易には判定できません。例えば、税務関係の手続きが多いですが、税務申告は税理士の業務であること、また、どの方法が最も節税できるかなどの判定は、税理士等専門家に相談のうえでないと、組合員へのアドバイスも難しいと思います。

また、税務書類の作成は税理士業務に該当し、これを税理士以外の者が行うと、税理士法違反となる可能性があるので注意が必要です。
本手引きに記載した注意点などを参考に、それぞれのケースに応じて、税理士等の専門家に相談のうえ進めることが望ましい。

ただし、税理士に依頼する場合でも、税理士任せにするのではなく、JA職員が間に入ることで、JA職員が状況を把握し、税務を実践的に学ぶことができます。また、税理士は必ずしも農業経営やJA事業に詳しいわけではないので、税務上間違いではなくても、農業経営やJAにとってはベストの選択肢ではない場合もあるため、そのような時に、JAがより望ましい方向に導く役割があります。

その他、労務関係については社会保険労務士、登記関係は司法書士、役所関係は行政書士等、必要に応じてそれぞれの専門家と連携して進めることを想定しています。

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