国税庁は7月1日、相続税・贈与税評価額の算定基準となる2024年分路線価(1月1日現在)を公表しました。これによると、全国約32万地点の標準宅地の評価額は、全国平均で対前年比2.3%上昇し、都道府県別の平均変動率は29都道府県で上昇し、福岡県が5.8%で3年ぶりに全国1位となりました。
ここでは、都道府県別の平均変動率をもとに、ぞれぞれの傾向を紹介するとともに、都道府県庁所在地の最高路線価地点について、それぞれの路線価図とGoogleストリートビューのリンクを貼っていますので、参考にして下さい。
1.路線価とは
路線価とは、国税庁が毎年7月に公表するその年の1月1日時点における道路に面した1m²あたりの評価額のことで、相続税評価額を算出する際に、土地の評価額を計算するために使用されます。
相続税路線価の水準は、公示価格の80%程度とされます。
路線価は、土地の評価や課税価格を計算する際に使用されます。また、路線価は、路線価図・評価倍率表と呼ばれるもので調べることができます。
路線価が設定されている地域を「路線価地域」、路線価が設定されていない地域を「倍率地域」といい、倍率地域では倍率方式によって土地の評価を行います。
なお、固定資産税にも路線価がありますが、こちらは3年に1回の評価替えとなります。また、その水準は公示価格の70%程度とされています。
2.都道府県別変動率の平均 福岡県が3年ぶりに上昇率全国1位
では、令和6年度(2024年度)の路線価を見ていきます。
平均変動率は29都道府県で上昇
都道府県別標準宅地の対前年変動率の平均値については(図3、表1)、前年は上昇が25都道府県でしたが、今年は29都道府県で上昇し、一方下落は16県となり、上昇が6割以上を占めました。
福岡県が5.8%上昇で3年ぶりに1位に返り咲き、次いで沖縄県(5.6%)、東京都(5.3%)、北海道(5.2%)、宮城県(5.1%)と続くが、この上位5都道県は僅差でした(図1)。
一方、下落率が最も大きかったのは、前年に続き和歌山県(▲1.0%)で、次いで愛媛県(▲0.8%)、富山県と鹿児島県(共に▲0.7%)となっています(図2)。
福岡県が3年ぶりに上昇率1位
福岡県は平均上昇率が5.8%と前年から1.3ポイント上昇率が高まり、3年ぶりに全国1位となりました。
福岡市中心部では「天神ビッグバン」と称する容積率緩和等のボーナスのある再開発が進行中であり、これらを背景に市の周辺でも住宅需要が高まり、マンションの建設が相次ぎ、地価上昇につながっています。
上昇率が最も高かったのは福岡市東区千早4丁目の「千早並木通り」の14.3%でした。千早地区は天神や博多駅へのアクセスが良く商業施設やマンションの開発が続いています。
沖縄県ではコロナ禍から回復し4年ぶりにゆいレール全駅で上昇
コロナ前には旺盛なインバウンド需要等を背景に、2018年から3年連続で上昇率全国1位だった沖縄県は、コロナ禍となって観光客が激減し、上昇率も低迷していましたが、23年にはコロナ禍から抜け出した。底堅い住宅需要に加えて観光需要も回復し、前年比で2ポイント拡大し、全国2位となる5.6%上昇と回復しました(図1、図3、表1)。
沖縄都市モノレール(ゆいレール)各駅では、4年ぶりに全地点で路線価が上昇。このうち、壷川駅では前年比16.1%、首里駅では同10.5%の高い伸びを示し、いずれも、観光需要の回復が影響しているとみられます。
19都道府県が3年連続上昇、9県が減少から上昇に転じる
今回変動率が上昇となった29都道府県のうち、19都道府県が3年連続上昇となり、このうち9都道府県で1.0ポイント以上上昇幅が拡大しました。
また、前年の下落から上昇に転じたのは、三重県と宮崎県の2県でした。
一方で、富山県と鹿児島県、栃木県の3県は下落幅が拡大しました(図2、図3、表1)。
図3 標準宅地路線価の変動率
3.県庁所在地の最高路線価 千葉市を筆頭に37都市で上昇
都道府県庁所在都市最高路線価は、上昇が37都市、横ばいが9都市となりました。
上昇率が最も高かったのは、千葉市の14.9%(中央区富士見2丁目 千葉駅東口駅前広場、223万円/m²)で、次いで、さいたま市11.4%(大宮区桜木町2丁目 大宮駅西口駅前ロータリー、529万円/m²)、岡山市9.1%(北区本町 市役所筋、179万円/m²)、札幌市9.0%(中央区北5条西3丁目 札幌停車場通り、728万円/m²)、福井市8.6%(中央1丁目 福井駅西口広場通り、38万円/m²)などとなっており、上位10都市までがいずれも5%以上の上昇率となりました。
一方で、唯一下落したのは鳥取市の▲3.1%(栄町 若桜街通り、9.4万円/m²)で、前年より0.1ポイント下落率が拡大しました。
全国で最も路線価が高い東京都中央区銀座5丁目銀座中央通りは4,424万円/m²と、39年連続で1位となり、変動率は3.6%上昇となった。2位以下は、大阪市、横浜市、名古屋市、福岡市等と続きますが、11位の広島市まで昨年と順位に変動はありませんでしたが、前年13位だった千葉市が熊本市を抜いて12位となりました。(図4、表2)
図4 県庁所在地の最高路線価の変動率
都道府県庁所在地の最高路線価ランキングと路線価図・ストリートビュー
4.令和5年路線価に見る依然堅調な地価上昇と今後の見通し
今回公表された路線価においては、コロナ禍の一時的な落ち込みから完全に回復し、全般的に上昇傾向が強まる形となった。社会経済活動が本格的に回復し、インバウンド需要の回復や都市再開発等の影響を受けたマンション価格の高騰などが見られ、円安による海外からの投資マネーも加わり、今後も当面は地価上昇が継続する可能性が高い見られます。
一方、長期的には少子高齢化と人口減少が進むこと確実に実需は縮小し、不安定な国際情勢や過度な円安、資源高等に加え、日銀の政策変更による金利上昇等の地価の下落要素も少なくないため、見通しは難しいでしょう。
なお、以上の全般的な情勢を踏まえつつ、あらためて路線価は相続税や贈与税の算定基準となるものであり、実際の相続税の試算や相続対策にあたっては、該当する路線価図から個別の具体的な路線価を把握し、それぞれに応じた状況を判断し、相続対策の検討等を行っていただきたい。
コメント