2022年1月1日に施行された改正電子帳簿保存法のもと、設けられた猶予期間が2023年12月31日までとなっており、残りもあとわずかです。
一定規模以上の企業の多くはすでに対応済みかと思いますが、一方で個人事業主などの小規模な事業者にとっては、まだ対応していない、あるいは対応したつもりだが、これで大丈夫なのか不安といった声も聞かれます。
電子帳簿保存法に対応しないとどうなるのか? 税務調査で不利になったり、青色申告の承認の取り消し、あるいは優遇措置を受けられないなど、今さら聞けない基本的な疑問について、あらてめて整理してみました。
1.そもそも、電子帳簿保存法の対象なのか?
そもそもの話として「うちのような個人事業主や零細事業者も、電子帳簿保存法の対象なのか?」といった疑問を、今なお見かけます。
あるいは、消費税と混同しているのか、「売上1千万円以下なら対象外」じゃないのかといった思い込みも、一部にはあるようです。
しかし、電子帳簿保存法は、すべての事業者が対象となります。
ただし、今回の法改正で義務化されたのは、電子取引に関する電子データの保存だけです。それ以外の帳簿の電子データのみの保存や、領収書等のスキャナ保存は義務ではありませんので、従来どおり紙で保存していても法的には問題ありません。
保存すべき電子取引に該当する電子データとは、請求書、領収書、契約書、見積書などです。メール添付やWEBからダウンロードしてこれらの書類をやりとりした場合、これらは全て電子取引に該当しますので、電子データで保存し、印刷して紙で保存することができなくなります。
逆に言うと、電子取引が一切無い、すべて書面でやりとししているのであれば、従来どおり紙のまま保存していても法令上は何ら問題ありません。
しかし、世の中あらゆる場面で電子化が進んでいます。従来は書類が郵送されてきた請求書や領収書が、最近WEBやメール添付に切り替わったなんてことも、多いのではないでしょうか?
これらも電子取引に該当しますので、法令に定める要件を満たす方法で、電子的に保存する義務があります。
今後はますます、電子取引を避けて通ることはできないでしょうから、電子取引の電子データ保存だけは、対応する必要があるでしょう。
2.電子帳簿保存法に対応しないとどうなるのか?
電子取引における電子データを、法に定められた保存要件を満たして、電子データで保存しなければ、違法になります。
一方、会計ソフト等でパソコンを使用して作成した帳簿や取引書類を、印刷せずに電子データで保存することが可能になりましたが、義務化されていませんので、従来どおり印刷して紙で保存していても違法ではありません。
しかし、法で定められた要件を満たさないまま、電子データだけ保存し、印刷した書類を保存しないことは違法になります。
また、紙の取引関係書類を、従来どおり紙のまま保存していても違法ではありません。
しかし、保存要件を満たさない形でスキャン保存し、紙の書類を廃棄することは違法になります。
2-1.税務調査で不利になるおそれがある
電子帳簿保存法の違反行為をしたからと言って、すぐにバレるわけではありません。それがバレてしまうのは、税務調査が入った時です。
税務調査とは、税務申告が正しくされているかを調査するものです。
税務署の職員(調査官)には質問検査権が認められており、帳簿書類の提示などの要求に応じなければなりません。
このときに、提示を要求された書類が、電子帳簿保存法の規則に従って保存されていない場合、不正扱いされてしまうと、推計課税が行われる可能性があります。
推計課税とは、所得税や法人税の税額の計算において、書類に不備や欠落があるために税額が正確に計算できないと判断され、税務署が税額を推定するもので、本来よりも多くの税額を課せられるおそれがあります。
さらに、仮にそのつもりがなくても、電子帳簿保存法の規則に従って書類が保存されていない行為が、悪質な隠蔽行為と判定されてしまうと、追徴の重加算税が課されます。申告漏れした額から、さらに10%加算した額を納めなければなりません。追徴課税を課せられる可能性すらあります。
2-2.青色申告を取り消される可能性も
電子帳簿保存法に違反していると、青色申告の承認が取り消される可能性もあります。これを心配している方も多いのではないでしょうか?
このことについて国税庁は、電子帳簿保存法の規則に違反したからといって、ただちに青色申告を取り消されるわけではなく、総合的に勘案して判断するとしています。
問66 電子取引の取引情報に係る電磁的記録について保存時に満たすべき要件を満たして保存できないため、全て書面等に出力して保存していますが、これでは保存義務を果たしていることにはならないため青色申告の承認が取り消されてしまうのでしょうか。(省略)
【回答】
(省略)その電磁的記録が保存時に満たすべき要件に従って保存されていない場合は、青色申告の承認の取消対象となり得ます。
なお、青色申告の承認の取消しについては、違反の程度等を総合勘案の上、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上、その適用を判断しています。(省略)【解説】
(省略)なお、青色申告の承認の取消しについては、保存時に満たすべき要件の違反があったことをもって直ちに必ず行われるものではなく、「個人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」「法人の青色申告の承認の取消しについて(事務運営指針)」に基づき、真に青色申告書を提出するにふさわしくないと認められるかどうか等を検討した上で行うこととしています。
国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」(令和5年6月)
3.義務ではないが、対応しないと受けられない優遇措置
電子帳簿・電子書類の電子データのままの保存については、義務化はされていませんが、国は電子化を進めようとしています。特に特定の要件を満たした優良な電子電子帳簿の保存を推奨しており、この対応をした場合の優遇措置が設けられています。
3-1. 青色申告の65万円控除
青色申告特別控除については、複式簿記等の要件を満たしていれば、55万円の特別控除が受けられます。
さらに、e-TAXによる申告(電子申告)又は、優良な電子帳簿の保存の要件を満たしていれば、65万円の特別控除をを受けることができます。
ただし、このための要件は、e-TAXでの申告だけでも65万円控除が受けられますので、優良な電子帳簿保存への対応は必須ではありません。
青色申告特別控除額 | 複式簿記 | 貸借対照表と損益計算書を添付 | 期限内に申告(※1) | e-Taxでの申告又は優良な電子帳簿の保存 |
---|---|---|---|---|
65万円 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
55万円 | 〇 | 〇 | 〇 | ー |
10万円 | (簡易な記載) | ー(※2) | ー | ー |
(注2)損益計算書の提出は必要。
3-2. 過少申告加算税の軽減措置
事業者が作成するすべての国税関係帳簿について優良な電子帳簿で作成・保存している場合は、その優良電子帳簿に記録された事項に関して申告漏れがあった場合でも、その申告漏れに課される過少申告加算税が5%軽減される措置を受けられます。
なお、この適用を受けようとするときは、あらかじめ税務署への届出が必要です。
4.まずは必須の電子取引の電子データ保存の対応を
以上、対応しないとどうなるかについて、説明してきました。
繰り返しますが、義務化された電子取引の電子データの保存だけは、しっかり対応する必要があります。
義務化はされていませんが、スキャナ保存については電子取引データの保存と併せて、タイムスタンプを付与するシステムなどを検討するとよいでしょう。
同じく義務化されていない、会計システム等の優良な電子帳簿保存のためのシステムの導入については、そのメリットや導入するためのコストなどを十分に検討したうえで、判断すればよいかと思います。
コメント