住宅市場動向調査(令和4年度)【民間賃貸住宅編】/国土交通省

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国土交通省は2023年5月19日、「令和4年度住宅市場動向調査」の結果を公表しました。この調査は、令和3年度中に、住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象としてアンケート調査を実施した結果をとりまとめたものです。

個人の住宅建設に関して影響を受けたことや資金調達方法等についての実態を把握し、今後の住宅政策の企画立案の基礎資料とすることを目的として、国土交通省が平成13年度から毎年度実施しています。

新型コロナウイルス感染症を契機とした「新しい生活様式」を踏まえた調査内容とすべく、令和4年度調査から、「住宅取得等の過程におけるインターネット活用状況」、「在宅勤務・在宅学習スペースの状況」、「宅配ボックス設置の状況」が新たな調査項目として追加されました。

ここでは、三大都市圏を対象とした民間賃貸住宅に関する結果について紹介します。

今回の調査期間は令和3年度中とコロナ禍がまだ収まっていない期間における調査でしたが、民間賃貸住宅においては、在宅勤務の普及による郊外化の傾向は見られず。依然として住み替え前より狭くなっても通勤時間の短縮を優先する傾向が続いています。

目次

1.民間賃貸住宅入居者の世帯について

(1) 世帯主の年齢

民間賃貸住宅入居者の世帯主の年齢別割合は、30歳未満が30.7%で最も多く、次いで30歳代が26.4%、平均年齢は39.4歳となっています。前年度に比べて60歳代以上の割合は上昇、30歳未満は低下しました。(図1)。

図 1 世帯主の年齢

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:世帯主の年齢

(2) 居住人数

民間賃貸住宅入居世帯の居住人員は、1人が38.5%と最も高く、次いで2人が31.6%と、2人以下の世帯が占める割合は約70%以上を占め、平均居住人数は2.0人となりました。
過去の推移を見ると、平成28年度から6年連続で1人世帯の割合が上昇していたが、今回はやや低下しました(図2)。

図 2 居住人数

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:居住人数

(3) 高齢者と高校生以下のいる世帯

高齢者のいる世帯は10.6%(前年度9.7%)となっており、このうち高齢者のみの世帯は65.6%(前年度55.4%)を占めており、高齢者のみの世帯が増えています。

一方、高校生以下については、中学・高校生のいる世帯が6.4%、小学生以下のいる世帯が20.1%となっています(図3)。なお、前年度までは「18歳未満がいる世帯」という区分で、今回から上記のとおり区分が分かれたため、前年度以前との比較はできません。

図 3 高齢者と高校生以下のいる世帯

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:高齢者と高校生のいる世帯

(4) 世帯年収

民間賃貸住宅入居世帯の世帯年収は、「400万円未満」の世帯が30.4%で最も高く、次いで「400万~600万未満」が25.2%となっています。平均世帯年収は499万円で、前年度(486万円)よりやや低下しました(図4)。

図 4 世帯年収

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:世帯年収

(5) 勤務先からの住宅手当

勤務先から住宅手当を受けている世帯は26.4%で、前年度より低下しました。
一方、住宅手当を受けている世帯の平均手当額は月額33,618円であり、前年度と比べてわずかに上昇しました(図5)。

図 5 勤務先からの住宅手当

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:勤務先からの住宅手当

2.民間賃貸住宅入居者の住み替えに関する意思決定

(1) 住宅の選択理由

民間賃貸住宅入居世帯における住宅の選択理由(図6)は、「家賃が適切だったから」が46.7%で最も多く、次いで「住宅の立地環境が良かったから」が41.8%、「住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから」が34.5%となっています。

前年度と比べると1位と2位が入れ替わりました。ただし、過去の推移を見ると、長らく「家賃が適切だったから」が1位、「住宅の立地環境が良かったから」が2位という順番が続いており、前年度は順位が入れ替わったものの、今年度元に戻った形です。

図 6 住宅の選択理由(複数回答)

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住宅の選択理由

(2) 住宅を探した方法

民間賃貸住宅入居世帯の入居過程における物件情報収集方法は(図7)、「インターネットで」が55.6%で最も多く、次いで「不動産業者で」が42.4%、「知人等の紹介で」が12.7%で続いています。

さらに、過去からの推移を見ると、10年以上前には「不動産業者で」が6割程度を占めて最も多かったのが、「インターネットで」が高い上昇率を続けて前年度には「不動産業者で」を上回り、今年度さらに差が拡がりました。

図 7 住宅を探した方法の推移(複数回答)

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住宅を探した方法の推移

(3) 設備等に関する選択理由

住宅の選択理由となった設備等として(図8)、「間取り・部屋数が適当だから」が67.3%で最も多く、次いで「住宅の広さが十分だから」が64.3%となっています。主にこの2つの理由が大きく、前年度と比べてもいずれもその割合は上昇しています。

一方、「住宅のデザインが気に入ったから」(32.2%)や「台所の設備・広さが十分だから」(29.1%)が前年度より低下しました。

なお、「住宅の広さが十分」とする回答については、後述の住み替え前後の延床面積(図12)では、住み替え後の方が狭くなっていることから、より広い住宅を求めているわけではなく、必要な広さを満たしているという意味と解釈できます。

図 8 設備等に関する選択理由(複数回答)

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:設備等に関する選択理由

(4) 在宅勤務スペース・宅配ボックス・高齢者対応

また、コロナ禍で在宅勤務が普及したが、在宅勤務等のスペースに関しては、「在宅勤務に専念できる個室がある」の33.3%をはじめ、何らかの在宅勤務等のスペースがあるが60%を占めています(図9)。

図 9 在宅勤務等のスペースの有無

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:在宅勤務等のスペースの有無

ネット通販の拡大によって宅配ボックスの普及も進んでいますが、宅配ボックスを「設置している」割合は34.2%となっています(図10)。


図 10 宅配ボックスの設置

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:宅配ボックスの設置

住み替え前後の高齢者対応設備及び省エネ設備の比較を見ると(図11)、「段差のない室内」(15.5%→20.0%)や「浴室・トイレの暖房」(16.7%→21.7%)といった、高齢者はもとより広い年齢層のニーズがあると考えられる設備が、住み替え前より住み替え後の整備率が高くなっている。

図 11 住み替え前後の比較:高齢者対応設備及び省エネ設備

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住み替え前後の比較:高齢者対応設備及び省エネ設備

3.民間賃貸住宅入居者の住み替え前後の比較

(1) 家賃の比較

住み替え前後の月額家賃を見ると、平均69,560円から78,069円へと、8,509円上昇しており、住み替え後の平均家賃は前年度より2,810円上昇しました(図12)。

家賃の上昇に伴い、家賃の負担感について、「非常に負担感がある」(9.4%)及び「少し負担感がある」(44.4%)を合わせて53.8%が「負担感がある」と回答し、前年度(48.9%)よりもやや上昇しました。

図 12 住み替え前後の家賃

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住み替え前後の家賃

(2) 面積の比較

住み替え前後の延床面積については、平均74.4m²から49.0m²へと、▲25.4m²、▲34.1%とかなり小さくなっている(図13)。広さを求める層は賃貸から分譲への移行が多いことや、世帯員数が減ったタイミングでの住み替えが多いと考えられ、より広い賃貸住宅への住み替えニーズは少ない状況です。

図 13 住み替え前後の延床面積

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住み替え前後の延べ床面積

(3) 通勤時間等の比較

住み替え前後の通勤時間を見ると、平均で38.5分から33.1分へと7.4分短縮している(図14)。住み替え前ですでに40分を切っているが、住み替えの際にさらに短縮したいというニーズが大きいことがうかがえます。

図 14 住み替え前後の通勤時間

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:住み替え前後の通勤時間

また、最寄りの公共交通機関までの距離については(図15)、住み替え前の1.4kmから住み替え後は1.2kmと短くなっており、鉄道駅等に近い賃貸住宅への住み替えニーズも大きいと言えます。

これらの傾向は以前から続く継続的なものであり、民間賃貸住宅の住み替えでは、通勤時間の短縮や駅近などの利便性の高いエリアに住み替えることが優先され、住宅の面積が以前よりやや狭くなっても構わないという考える人が多い傾向があります。

図 15 最寄りの公共交通機関までの距離

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:最寄りの公共交通機関までの距離

4.民間賃貸住宅入居者の賃貸住宅に関して困ったこと

民間賃貸住宅入居世帯の26.6%は、困った経験があるとしています。その内容について、契約時においては、「敷金・礼金などの金銭負担」(51.6%)や「連帯保証人の確保」(28.1%)の割合が高くなっています。

入居時においては、「近隣住民の迷惑行為」(36.6%)や「家主・管理会社の対応」(25.5%)が高く、退去時においては、「修繕費用の不明朗な請求」(24.8%)等が高い結果となっています。

図 16 賃貸住宅(普通借家)に関して困った経験(複数回答)

令和4年度市場住宅市場動向調査(民間賃貸住宅)グラフ:賃貸住宅(普通借家)に関して困った経験

5.賃貸住宅の市場動向(まとめ):コロナ禍の影響は小さく依然通勤時間の短縮

コロナ禍においては、リモートワークが普及したことで、在宅勤務に適したスペースや郊外での住宅ニーズが高まったと言われることも多いかと思います。この傾向は、戸建住宅や分譲集合住宅では住み替え後の「在宅勤務等に専念できる個室がある」とする回答の割合が最も高いといった所にも見ることができます。

一方で、賃貸集合住宅においては、住み替え後も「在宅勤務等に専念できる個室やスペースなどはない」とする回答の割合が最も高く、住宅ニーズへの大きな変化は見られません。
許容範囲であれば、家賃が若干高くなっても、部屋が狭くなっても、通勤時間が短くなることを優先して住み替えている傾向が継続しています。

今後についても、コロナ禍の収束によって多くはコロナ前の通勤に戻り、大都市圏中心部等への通勤利便性の高い立地の優位性は変わらない可能性が高いと思われます。

一方で変化のあったこととしては、賃貸住宅をインターネットで探すことについては、コロナ禍で一層加速し、それが当たり前と言える状況となったと言えるでしょう。


 

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