住宅着工戸数が3年ぶりに減少(令和5年計)ー持家が11%減

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国土交通省は1月31日、令和5年の新設住宅着工戸数を公表した(建築着工統計調査報告・令和5年計)。それによると、総戸数は前年比4.6%減となり3年ぶりに減少に転じた。利用関係別で見ても、持家の前年比11.4%減をはじめとして全ての利用関係で減少したが、貸家は0.3%の微減にとどまった。

目次

1.全国の住宅着工動向

(1) 新設住宅着工戸数は3年ぶりに減少

新設住宅着工戸数(総戸数)の平成15年以降の推移を見ると(図1)、平成21年にリーマンショックの影響を受けて大幅な落ち込みがあった後、平成26年の消費税率引き上げによる一時的な減少を除けば、平成28年までは緩やかな回復基調で推移していた。

その後、平成29年になると減少に転じ、その後も減少傾向が続いていたところに来て、令和2年はコロナ禍の影響で大きく落ち込み、令和3年、4年は少し持ち直したものの、令和5年は3年ぶりに減少に転じた。総戸数は約82万戸でコロナ前の水準に戻っていない。

図 1 新設住宅着工戸数の推移(総戸数、利用関係別)

新設住宅着工戸数の推移

(2) 貸家は前年比0.3%減と微減

利用関係別着工戸数で見ると(図2)、持家が22万4,352戸(前年比▲11.4%)、貸家が34万3,894戸(▲0.3%)、分譲一戸建が13万7,286戸(▲6.0%)、分譲マンションが10万7,879戸(▲0.3%)であった。
持ち家が2年連続で10%を超える減少となるなど、全般的に減少傾向が強まるなかで、貸家と分譲マンションはともに0.3%減とわずかな減少にとどまった。

図 2 利用関係別新設住宅着工戸数の推移

グラフ:利用関係別新設住宅着工戸数の推移

2.大都市圏別住宅着工の動向

(1) 総戸数は首都圏と近畿圏が増加、中部圏は減少

新設住宅着工総戸数を大都市圏別に見ると(図3)、首都圏が29万3,837戸(前年比▲2.5%)、中部圏が9万2,874戸(▲7.0%)、近畿圏が13万2,807戸(▲3.5%)であった。
いずれの都市圏も減少しているが、中部圏は2年連続減少で減少率も最も大きい。

図 3 大都市圏別新設住宅着工戸数の推移

グラフ:大都市圏別新設住宅着工戸数の推移

(2) 貸家は近畿圏がコロナ前の水準に回復

貸家の着工戸数の推移を見ると(図4、図5)、コロナ禍の令和2年にいずれの都市圏も大きく落ち込んだが、翌年は回復に向かい、特に近畿圏は急回復して令和4年にコロナ前の水準を超えた。
令和5年はいずれの都市圏も減少に転じたが、首都圏は前年比0.2%減とわずかな減少幅にとどまり、近畿圏は1.3%減、中部圏は2.6%減となっている。

図 4 大都市圏別新設住宅着工戸数(貸家)の推移

グラフ:大都市圏別新設住宅着工戸数(貸家)の推移

3.地方別住宅着工の動向

(1) 貸家は沖縄や北海道で増加

地方別に見ると(表1)、総戸数では、沖縄を除いて前年比マイナスとなり、北陸地方(▲13.0%)や中国地方(▲9.4%)は大幅な減少となった。
 貸家については(表1)、沖縄の21.1%増をはじめ、北海道(+9.0%)などで大きく増加し、一方で中国地方(▲12.7%)や北陸地方(▲8.4%)で大きく減少した。

(2) 地方別総戸数の推移

全体の住宅着工戸数は、リーマンショック以降で見ると平成28年が最も多いことから、平成28年を100として、地方別の貸家の推移を見てみる。

総戸数については(図6)、いずれの地方も依然として平成28年の水準を下回っているものの、近畿と九州は90以上の水準にある。

一方、沖縄県は、令和元年以降4年連続で減少したが、令和5年は大きく回復した。
東北地方も令和2年の落ち込みが大きく、その後は若干の回復傾向も見られたが、令和5年はまた減少に転じた。また北陸地方の下落傾向が強まっており、令和5年は72.4まで減少した。

図 5 地方別新設住宅着工数の推移(総戸数)(平成28年=100)

グラフ:地方別新設住宅着工数の推移(総戸数)

(3) 地方別貸家の推移

貸家についても同様に平成28年を基準として推移を見ると(図7)、近畿地方が唯一平成28年の水準を上回り102.9となっているが、令和5年はやや減少した。次いで九州、関東、中部の3つの地方は80台の水準であり、うち九州地方は回復傾向にある。

コロナ前には、海外からの観光や投資需要が旺盛だった沖縄は、令和元年以降4年連続で減少し、減少幅も大きかったが、令和5年はようやくコロナ禍からの回復が見られた.。
東北地方も令和2年時点までは、沖縄とほぼ同様の減少傾向であったが、その後増加に転じ令和5年は65.4まで回復した。

一方、北陸地方は総戸数と同様に貸家についても減少傾向が強まっており、地方別の順位も下から2番目の62.7にまで減少した。

図 6 地方別新設住宅着工戸数の推移(貸家)(平成28年=100)

グラフ:地方別新設住宅着工戸数の推移(貸家)

4.都道府県別住宅着工の動向:貸家は徳島県、長崎県、香川県で大幅増

都道府県別に総戸数を見ると(表1、図8、図9)、長崎県の前年比17.2%増をはじめ、徳島県(+14.3%)、沖縄県(+10.9%)の3県が10%以上の高い増加率となった。一方で、岡山県(▲22.0%)、秋田県(▲19.6%)、和歌山県(▲16.8%)、高知県(▲16.5%)、新潟県(▲15.6%)、山梨県(▲15.0%)の6県は15%以上の減少となった(表1)。

貸家については、徳島県の前年比64.7%増をはじめ、長崎県(+40.9%)、香川県(+30.9%)の3県が30%を超える高い増加率となった。一方で、岡山県(▲28.6%)、鳥取県(▲28.1%)、高知県(▲26.9%)、岐阜県(▲23.2%)の4県が20%以上の減少となった。 

図 7 令和5年計着工新設住宅戸数前年比(総戸数・都道府県別)

図 8 令和5年計着工新設住宅戸数前年比(貸家・都道府県別)

表1 令和5年計着工新設住宅戸数:利用関係別・都道府県別表

表2 令和5年計着工新設住宅戸数:利用関係別・都道府県別表

5.令和5年月別住宅着工の推移:貸家は全月プラスで推移

令和5年の月別新設住宅着工戸数の前年同月比を見ると、1月はプラスだったものの、2月にマイナスに転じ4月には-11.9まで落ち込んだ。翌5月一時プラスとなったものの、6月以降12月までマイナスで推移した(図10)。

貸家について月別の前年同月比を見ると(図11)、1月から3月までプラスで推移し、5月に10.5%増と高い増加率となったあと、6月にはマイナスに転じて後半はやや低調に推移した。

図 9 令和5年月別新設着工戸数(総戸数)

図 10 令和5年月別新設着工戸数(貸家)

6.住宅着工戸数から見る住宅市場の縮小と住宅価格の上昇

新設住宅着工総戸数は、令和2年のコロナ禍による大きな落ち込みから、その後回復が見られたが、令和5年は3年ぶりに減少に転じた。特に分譲一戸建ての落ち込みが大きく、貸家は微減にとどまった。

アフターコロナとなって社会経済活動が正常化してきたものの、実質賃金や可処分所得の減少が続いている状況で、地価や住宅価格は上昇しているため、より一層住宅取得のハードルが高くなっていることが、新設住宅着工数において分譲一戸建てが大幅に減り、貸家が微減にとどまっていることの主な要因として考えられる。

住宅の全般的な実需は、人口や世帯数の減少はもとより、非婚化や少子化等の傾向が強まっている。つまり、住宅の需要者の総数が減少しているうえに、結婚や出産等で家族が増えるという新たな住宅を求めるインセンティブの機会も減少し、住宅市場の縮小は今後さらに強まるとみられることから、長期的な視点で捉えることが重要である。

ただし、都道府県別の特徴で見たように地域差が大きいことから、それぞれの地域で市場の動向を正しく捉える必要がある。また、住宅着工統計からわかるのは、住宅の供給量であるため、一方の世帯数の増減など需要量の動向や、貸家の空室率といった需給バランスを注視することが大切である。

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