1.体験型農園の意義
(1)社会的背景
体験型農園の意義について、まず社会的な背景として、農業の将来に対する危機感や持続可能な社会の実現、成熟社会における人々の価値観と行動の変容といったことがあり、これらについて、農業者と消費者が価値観を共有していくという、体験型農園が大きな役割を果たすものとして注目されています。
- 農業の将来に対する危機感
- 農業者と農地の減少、食料自給率の低下等の危機
- 農業者と消費者が危機感と価値観の共有が必要
- 持続可能な社会の実現
- 協働による生産・流通・消費の食料システムの構築
- 成熟社会における人々の価値観と行動の変容
- 様々な体験や人と人とのつながりや田園回帰志向
(2)体験型農園に取り組む意義
このことを受けて、体験型農園に取り組むことは、農家やJA、地域住民等利用者それぞれにとって、次に挙げるような大きな意義があります。
まず農家にとっては、所得増大が期待できる、労働負荷を軽減して営農継続しやすくなる、農業が再評価されてやりがいが醸成される、農地の保全と有効活用の一つになる、ということが挙げられます。
- 農業者の所得増大
- 小さい面積でも高い収益性
- 労働負荷の軽減と営農継続
- 農作業を利用者が担う、高齢でも継続しやすい
- 農業に対するやりがいを醸成
- 農業の再評価、コミュニティの拠点、営農継続
- 農地の保全と有効活用
- 賃貸住宅需要の減少、農地として活用
JAにとっては、地域住民の農業理解が進む、メンバーシップの強化や地域農業振興の応援団づくり、新たな担い手の確保や育成につながる、組合員減少の抑制、多様な担い手の確保や農地の維持等総合的にJAの経営基盤の維持につながる、といったことが挙げられます。
- 地域住民の農業理解の醸成
- 年間を通した農作業により農業理解が深まる
- メンバーシップの強化・地域農業振興の応援団づくり
- 准組合員化、作って応援、援農ボランティア
- 新たな担い手の確保・育成
- 利用者の一部が就農意向、農業塾等の機会を提供
- JAの経営基盤の維持
- 組合員減少抑制、多様な担い手、農地の維持
地域住民にとっては、貸し農園よりも気軽に参加できる農業体験の場として、優れた食農教育お場や多様な“農”の価値を享受できる場として大きな意義があります。
また、コロナ禍においては、様々な生活の変化が起きていますが、そんな中で体験型農園は、感染リスクが低い、アウトドアニーズの高まり、ストレス軽減効果があるといった追い風となりました。
- より気軽に参加できる農業体験の場
- 市民農園より参加へのハードルを下げる
- 優れた食農教育の場
- 食をはじめ、農業の役割、自然や地域、文化等、幅広い世代が総合的、継続的に学習
- 多様な“農”の価値の享受
- レクリエーション、心身ともに健康、食生活の改善・向上
- コロナ禍による変化と新たなニーズに応える
- 感染リスクが低い、アウトドア、ストレス軽減等
《農園利用者アンケート・農園を利用して良かったこと》
《コロナ禍による変化と新たな農園ニーズ》
2.JAグループの体験型農園の位置付けと取り組み方針
(1)体験型農園の普及に向けたJAグループの取組方針
平成28年8月、JAグループの取り組み方針として、農業者の所得増大および農業振興の応援団づくり等に向けたJA自己改革の一環として、地域の実情を踏まえて従来の市民農園を発展させ、栽培指導などの各種サービスを充実させた「体験型農園」の普及に取組むとしました。
①JAは、農家組合員が農業経営の一環として行う体験型農園の開設・運営を促すため、情報提供等を行う。また、必要に応じて開設・利用者募集・代金回収等の支援を行う。
②JAは、高齢化などで農家が主体となって運営できない場合、自ら体験型農園の運営を行う。
(2)体験型農園のポイント
従来の市民農園は、安価で自由に作付けができるなどの利点があるが、自ら栽培方法を調べ、農具や種苗等を準備するなど手間もかかるため、時間に余裕のある高齢者層が過半を占めています。
一定の費用をもとに各種サービスを備えた「体験型農園」を普及することで、これまで農園利用が少なかった子育てファミリー層や企業の福利厚生需要など幅広い層の利用を促し、農業者の所得増大や農業振興の応援団づくり等に結びつくものと期待されます。
1)農家や指導員が栽培を指導、初心者も安心
2)各種資材は農園側が用意、より気軽に楽しめる
3)利用者の交流イベントなどを実施
4)適切な管理を行うため、景観も好ましい
5)一定のサービスを前提とすることで、市民農園とは異なり一定水準の利用料が設定可能。事業として採算性を確保することで、JAとしても持続的に取組むことができる。
3.体験型農園の定義
体験型農園とは、広い意味では体験型農園も市民農園の1つですが、「貸し農園」は、農地を貸すことがメインで、「体験型農園」は、農業体験のためのサービス提供がメインとなります。
この中に、農家が開設・運営主体の農業体験農園や就農目的の市民農業塾も含みます。
一方、収穫など一部のみの農業体験をする体験農園は含めないと整理しています。
なお、農業体験農園とは、農家が開設・運営主体のものに限定されます。体験型農園は、JAやその他の団体など、農家以外が開設・運営主体のものも含めた総称として使用しています。
詳しくは全国農業体験農園協会のHPをご覧下さい。
体験型農園の法令等による定義はないのですが、JAグループで定義した体験型農園は、以下の3つの要件を満たすものとしています。
要件の1と2だけでも体験型農園と言ってもいいように思われるかもしれませんが、あえて、要件3を加えて利用者と交流イベントを行って、交流を図ることを重視しています。
(1)体験型農園の要件
体験型農園という名称は、特に法令等による定義はありませんが、JAグループでは以下の3つの要件を満たすものを、体験型農園としています。
要件1と要件2の2つでも体験型農園と言ってもいいように思われるかもしれませんが、あえて、要件3の利用者とのを図ることを重視しています。
要件1:定期的な栽培指導や収穫体験を行う
定期的に栽培講習会や収穫イベントを開催するなど、年間を通した食や農に関する体験を行う。
要件2:農作業に必要な設備や農具を設置し、種苗や資材を提供する
農作業をするために必要な給水等の設備や農具を設置し、種苗や肥料・農薬その他の生産資材を提供する。
要件3:利用者の交流イベントを行う
利用者同士の交流や、多様な食や農に関するイベントを行う。
(2)市民農園(区画貸し)と体験型農園の違い
一般的に市民農園というと、区画貸し農園を指すことが多いですが、これと体験型農園の違いについて整理すると、以下のとおりとなります。ただし、これに当てはまらないケースも存在する可能性はあります。
区画貸しの場合は必ず、市民に農地を貸すための法的な手続きが必要となり、一方農業者が所有地で開設する体験型農園は、法的な手続きは不要です。
そして体験型農園は、農業体験のためのサービスを提供する農園ですので、作付計画の作成、栽培指導、種苗や資材一式の提供、必要な施設・設備の整備、交流イベント等を実施し、これらの提供サービスと収穫する農産物の対価として、貸し農園よりは高い料金をいただくことができます。
項目 | 市民農園 (区画貸し) | 体験型農園 | |
農業体験農園 | |||
運営主体 | 自治体・JA・農業者・その他 | 農業者以外 | 農業者 |
開設方法 | 以下のいずれかの法律に基づき農園利用者に貸付け ・特定農地貸付法 ・都市農地貸借円滑化法 ・市民農園整備促進法 | 所有農地で開設する場合は、法的手続きは不要 | |
耕作者 | 農園利用者 | 農園利用者 | 運営主体(農業者) |
作付計画 | 農園利用者が自由に作付け | 運営主体が作成 | |
栽培指導 | 無し or 年数回程度 | 運営主体が年間通して指導 | |
種苗や資材 | 農園利用者が用意 | 運営主体から全て提供 | |
施設・設備 | 給水設備等 不十分な農園が多い | 給水設備、農具等倉庫、トイレ、休憩所等 | |
交流イベント | 無し | 年数回実施(主に年10~15回) | |
利用料金 | 農地の賃借料として、安価 | 提供サービスと収穫する農産物の対価として、貸し農園より高い |
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