令和5年地価公示 コロナ前の水準へと回復(国土交通省)
国土交通省は3月22日、令和5年1月1日時点の地価公示を発表した。これによると、新型コロナの影響で弱含んでいた地価は、ようやくその影響が小さくなり、景気が緩やかに持ち直している中、都市部を中心に上昇傾向が強まり、地方部においても上昇範囲が広がるなど、コロナ前の水準へと回復が見られた。
1.地価公示とは
地価公示とは、国土交通省土地鑑定委員会が毎年1回、1月1日時点における標準地の価格を公示するもので、毎年3月下旬に公表される。
最も代表的な土地評価であり、一般の土地の取引価格に対して指標を与えるとともに、公共事業用地の取得価格算定の規準とされ、また、国土利用計画法に基づく土地取引の規制における土地価格算定の規準とされる等により、適正な地価の形成に寄与することを目的としている。
全国で選定された3万数千地点の標準地について、毎年1月1日時点を基準日として各標準地につき2名以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その適正な価格を公表される。
標準地として選定される対象区域は、「土地取引が相当程度見込まれる」という規定がある。
公示地価と基準地価
国(国土交通省)が調査主体である地価公示によるものが「公示地価」であり、都道府県が調査主体として、毎年7月1日時点の約2万地点の「基準地」の地価を毎年9月下旬に公表するものが都道府県地価調査による「基準地価」となる。
公示地価の半年後を調査時点としているため、公示地価と基準地価を見ることで、半年ごとの地価の推移を見ることができる。
公示地価の「標準地」が3万数千地点であるのに対し、基準地価の「基準地」は約2万地点とやや少なく、標準地と基準地の重複地点もある。
公示地価と路線価
国税庁が相続税や贈与税の算出基準として公表している、土地が面している道路ごとに設定されているものが相続税路線価となる。
相続税路線価は、毎年1月1日時点の公示地価や売買実例価格、不動産鑑定士等による鑑定評価額などをもとに決定される。
したがって、相続路線価は、公示価格と連動しており、その価格水準は公示価格の8割程度とされる。
▶Coasys Note | 令和5年分(2023年分)路線価を国税庁が公表
また、路線価には固定資産税路線価というものもあり、市町村が公示地価等を参考にしつつ、3年ごとにその評価を見直す。その価格水準は地価公示の7割程度とされる。
一般的に「路線価」と言えば、相続税路線価をさす。
2.全国の動向
■住宅地、商業地ともに2年連続で上昇
全国平均の地価の変動率では、住宅地は1.4%上昇(昨年+0.5%)、商業地は1.8%上昇(同+0.4%)と2年連続で上昇となった(表1)。この上昇率は、リーマン・ショック前の平成20年の1.7%上昇に次ぐ水準で、都市部の商業地で大きく伸びた。
新型コロナウイルス感染症は完全には収束していないものの、社会経済活動がコロナ前の状況に戻りつつあり、それが地価にも反映されてコロナ前の水準へと回復が見られた。
変動別地点割合でも、上昇地点の割合が住宅地では56.3%(同43.5%)、商業地では59.9%(同40.8%)と上昇地点割合が拡大した(表2)。
3.大都市圏・地方別の動向
■三大都市圏の住宅地は全ての都市圏で2年連続で上昇
三大都市圏では、住宅地はいずれの都市圏も2年連続で上昇し、上昇率も拡大した。商業地は東京圏、名古屋圏で2年連続上昇し、大阪圏は3年ぶりに上昇となった(表1、図1、図2)。
東京圏の住宅地は2.1%上昇(昨年+0.6%)、商業地は3.0%上昇(同+0.7%)といずれも2年連続で上昇した。
大阪圏の住宅地は、0.7%上昇(同+0.1%)と上昇したものの上昇幅はわずかで、商業地は2.3%上昇と3年ぶりの上昇となった。
名古屋圏の住宅地は2.3%上昇(同+1.0%)、商業地は3.4%上昇(同+1.7%)といずれも2年連続で上昇した。
表 1 圏域別・地方別対前年平均変動率(単位:%)
■地方圏の住宅地は2年連続上昇、地方四市は上昇幅を拡大
地方圏の住宅地は1.2%上昇(昨年+0.5%)、商業地は1.0%上昇(同+0.2%)と、いずれも2年連続上昇となった(表1)。
特に、コロナ禍の影響を大きく受けた令和3年にも上昇を継続した地方四市は、住宅地8.6%上昇(同+5.8%)、商業地8.1%上昇(同+5.7%)と上昇幅をさらに拡大した。
地方別の住宅地では、昨年に引き続き北海道が7.6%上昇(同+4.6%)と顕著な上昇となり、次いで九州・沖縄地方が2.2%上昇(同+1.5%)と上昇幅を拡大した。
4.都道府県の動向
■住宅地の上昇率は北海道が3年連続全国1位
都道府県別の変動率は(図3、図4、表2)、住宅地では北海道が7.6%上昇(昨年+4.6%)で、昨年よりも3ポイント上昇率を拡大し、3年連続の全国1位となった。次いで、福岡県(+4.2%)、宮城県(+4.0%)、沖縄県(+3.6%)、東京都(+2.6%)となっている。
これらの住宅地の地価上昇を牽引しているのは、「地方四市」のうち3市を中心とする都市圏の成長や拡大によって、周辺地域を含めた郊外部での地価上昇が目立っている。
これらを含めて24都道府県で上昇しており、昨年の20都道府県からやや増加した。
昨年の変動率と比較すると、46都道府県で昨年よりも上昇率が拡大または下落率が縮小しており、徳島県のみ昨年と同じ0.6%下落であった。
住宅地の上昇地点の割合は(表2、図4)、沖縄県が99.2%で最も高く、下落地点は1つもない。次いで東京都(92.0%)、愛知県(79.9%)、福岡県(79.8%)等となっており、上昇地点割合が50%以上を占めたのは19都道府県であった。
■住宅地の下落率は和歌山県等3県が1.0%以上の下落
住宅地の変動率は(表2、図3)22県が下落となった。このうち、和歌山県が1.2%下落(昨年▲1.3%)、愛媛県が1.0%下落(同▲1.1%)と、2県が1.0%以上の下落率となった。
また、兵庫県(+0.7%、昨年▲0.1%)、岡山県(+0.4%、同▲0.3%)、長野県(+0.1%、同▲0.2%)、岩手県(+0.1%、同▲0.1%)の4都府県では、下落から上昇に転じた。
住宅地の下落地点の割合は(表2)、愛媛県(83.4%)、和歌山県(79.8%)、香川県(75.2%)、山梨県(72.0%)の4県で70%以上を占めたのをはじめ、16県で下落地点割合が50%以上を占めた。
■商業地の上昇率は福岡県が3年連続1位
商業地の地価変動率は(表2)、福岡県が5.3%上昇で3年連続の1位となった。次いで、北海道(+4.9%)、宮城県(+3.6%)、愛知県(+3.4%)、東京都(+3.3%)となっている。これらを含めて23都道府県が上昇となった。
商業地の上昇地点の割合は(表2)、東京都が98.1%で最も高く、次いで沖縄県(88.1%)、神奈川県(87.7%)、愛知県(86.3%)等となっており、上昇地点割合が50%以上を占めたのは20都道府県であった。
一方23県では依然下落しており、下落率が大きいのは、鳥取県が1.4%下落となったのをはじめ、鹿児島県(▲1.1%)、新潟県(▲1.1%)、和歌山県(▲1.0%)、島根県(▲1.0%)等となっているが、これらの県はいずれも、前年と比べて下落率は縮小した。
図3 都道府県別住宅地の対前年平均変動率
図4 都道府県別住宅地の上昇地点の割合
表 2 都道府県別・用途別対前年平均変動率
5.市区町村の動向
■北海道の市が上位を占める
三大都市圏の全ての市及び人口10万人以上の市における住宅地変動率の上位を見ると(表3)、江別市の27.5%上昇をはじめ、札幌市(15.0%)、帯広市(9.8%)と北海道の市が上位3位を独占した。
全国の住宅地上昇率上位100地点では、その全てが北海道の地点で占められるという異例の事態となっている。その内訳は、札幌市と江別市がともに28地点、恵庭市17地点、北広島市14地点、石狩市8地点、千歳市5地点となっている。いずれも札幌市及びに札幌市に近接する地域で、札幌市内に比べて割安感のある郊外部の住宅需要が高まっている。
北広島市は、住宅地の上昇率上位4位までを独占した。全国上昇率1位となった地点は、北広島市の2023年3月に開業した北海道ボールパークと新駅等周辺開発が進むエリアに近い住宅地で30.0%上昇となり、商業地においても、北広島市駅西口再開発が進む地点が28.4%上昇で全国1位となった。
■地方四市では、札幌市はじめ福岡市、仙台市が高い上昇率
地方四市の中でも、特に札幌市が15.0%上昇(昨年+9.3%)と非常に高い上昇率となっており、福岡市や仙台市でも高い上昇率となっており、その周辺都市でも高い上昇が見られる(表3、表4)。
札幌市の中でも手稲区は22.1%上昇と最も高い上昇率となっており(表4)、全ての区で10%以上の高い上昇率となっている。さらに札幌市の周辺市では、相対的な割安感等から、江別市(+27.5%)、恵庭市(+26.4%)、北広島市(+26.2%)、石狩市(+20.9%)等では、札幌市を上回る高い上昇率となっている。
福岡市の住宅地は8.0%上昇し(昨年+6.1%)、⼈⼝増加や福岡都市圏の拡大を背景に引き続き需要が堅調で、特に博多区は12.9%上昇と高い上昇率となった。さらに、福岡市に近接する古賀市(+9.2%)、大野城市(+8.6%)、筑紫野市(+8.1%)は、福岡市よりも高い上昇率となっている。
仙台市の住宅地は5.9%上昇し(昨年+2.0%)、仙台市に近接する富谷市(+9.1%)、名取市(+6.2%)、大和町(+8.9%)等でも高い上昇率となっている。
■東京圏では特別区の近接地域で高い上昇率
東京圏においては、浦安市が9.7%上昇と最も高い上昇率となった。次いで、市川市(+6.8%)、戸田市(+5.8%)、川口市(+4.9%)、蕨市(+4.9%)と続き、特別区に近接する地域が上位を占めた。都心に近く利便性が高く、都心に比べると割安感のあるエリアの需要が高まった。
特別区23区では、台東区(+4.8%)、豊島区(+4.7%)、中野区(+4.6%)等をはじめ、11区で4%以上の高い上昇率となっている。
その他、名古屋圏では、名古屋市に隣接する東海市(+7.8%)や、自動車産業関連で住宅需要が高まっている刈谷市(+6.3%)、安城市(+6.2%)等で高い上昇率となった。
表 3 三大都市圏及び地方圏主要都市の地価変動率(上位50位)(変動率:%、平均価格:円/m²)
表 4 地方四市の区別住宅地変動率と平均地価
6.コロナ後の今後の見通し
今回の地価公示では、ようやく新型コロナウイルス感染症の影響による停滞から抜け出し、社会経済が動き出したことにより、地価もコロナ前の水準へと回復が顕著となった。
コロナ禍でのリモートワークの普及等、生活の変化を背景に見られた郊外部での住宅需要の高まりは広範囲には拡がらず、都市圏中心部に比較的近く、交通利便性が高く、地価に割安感のあるエリア等に人気が集中し、高い上昇率が見られた。一方で都市圏縁辺部等においては、依然として地価の下落傾向が続いている。
地方では、例えば札幌市、福岡市、仙台市等の大都市、あるいは沖縄県や熊本県等においては、都市や地域の成長を背景とする住宅需要に投資目的も加わって地価を押し上げている。今後、新型コロナが5類に移行し、様々な行動制限等がなくなり、本格的に社会経済が動き出す。インバウンドも本格的に回復すれば、訪日客が多い地域等において、投資マネーの流入による地価上昇も見込まれる。
ただし、今回の高い地価上昇率は、コロナ禍での落ち込んだ需要の一時的な反動との見方もある。少子高齢化を背景とする人口減少は一層進んでおり、地価の上昇傾向が長続きするとは考え難い。社会移動による人口と宅地需要や投資マネーによる地価上昇は、一部のエリアに限定されるであろう。
また、コロナ禍を抜け出してもなお、地価の下落傾向が続いている県では、県庁所在地等の中心都市でも人口や経済の成長の陰りから、地域全体に土地需要が減退し、地価の下落傾向が続いていると見られる。
それぞれの地域の人口や経済の動向を把握し、宅地需要を見極めていくことが重要だ。