地方圏の生産緑地制度 導入の勧め(2)都市農業の位置付け
「あるべきもの」に転換
都市が急速に拡張していた高度成長期に導入された都市計画の線引き制度において、市街化区域農地は宅地化すべきだとされた。特にバブル経済期には、宅地化せずに残っている市街化区域農地が地価高騰の元凶のような言われ方までされた。
その後、バブルがはじけて地価は下落の一途をたどり、少子高齢化の進展によって人口は減少に転じて都市が縮退する時代となり、いわゆるコンパクトシティ、都市の集約化が重要課題となった。
こうして2015年に都市農業振興基本法が制定、翌年に都市農業振興基本計画が策定され、市街化区域農地の位置付けが「宅地化すべきもの」から「都市にあるべきもの」へと大転換し、都市農業の振興に向けた方向性が示された。
都市農業は農産物生産のみならず、多様な機能の観点から評価されそれぞれの機能の発揮が期待されている。
都市農業の最大のメリットは、近くの多くの消費者に新鮮な農産物を供給できることであり、直売や農業体験
などを通して、農業者と消費者が継続的に交流することで、都市住民が安定した顧客となり、農業理解を醸成し、ファンとなって都市農業を応援してくれることである。
また、面積規模に制約があるものの、施設園芸などの集約型や6次産業化など多角化による高収益経営も可能であり、その際にも都市農業のメリットを生かすことができる。一方、収益性が低くとも、農地が保全されることで、防災や緑地空間、環境保全といった、公益性の高い機能の発揮についても高く評価される。
都市農業の位置付けが転換されたものの、地方圏では都市農地の保全にあまり積極的な姿勢が見られず、生産緑地制度の導入実績も少ない。人口減少や宅地需要の減退は、むしろ地方圏の方が顕著であり、市街化区域農地で営農継続困難となれば、耕作も宅地化もされない荒廃地となって地域環境の悪化も懸念される。良好な地域環境維持のためにも、都市農地を維持、活用しやすい生産緑地制度の導入が有効と言える。
(日本農業新聞 2021年4月14日掲載)