体験型農園「葉っぴーgarden」/JA金沢市
JA金沢市では平成31年3月、JA支援型の体験型農園「葉っぴーgarden」をオープンした。市街化農地の有効な保全・活用策の1つとなるとともに、JA自己改革の一端として、体験型農園の開設・運営の支援に、JAの各部署が連携して取り組んでいる。
1.農園の概要
体験型農園「葉っぴーgarden新保本」は、金沢市の南西部に位置する新保本二丁目、区画整理が実施された住宅街にある。農園の運営主体は農家組合員の武藤氏で、JAが開設・運営を支援するJA支援型の体験型農園である。
この農地は水田で、以前は水稲を作っていたが、住宅に囲まれた中での防除作業等の農作業が周りに気を遣う環境であったこともあり、水田を客土して体験型農園に切り替えた。
20m²の区画が20区画あり、うち19区画が利用され、年間利用料は45,000円である。1年の前半と後半でそれぞれ5品目ずつ、年間10品目を栽培する。その他、空きスペースを共同区画として、前半にはトウモロコシを栽培した。
農園の施設及び設備としては、農具倉庫を兼ねるパイプハウスや、水道、フェンスを設置してある。専用駐車場は無いが、栽培講習会の日は隣接地を駐車場として使用できる。また、近隣にはトイレのある公園がある。
「葉っぴーgarden新保本」の概要
開設・運営主体 | 農家組合員 武藤氏(JAが開設と運営を支援) |
開設時期 | 平成31年3月24日(オープニングセレモニー) |
所在地 | 石川県金沢市新保本二町目 |
敷地面積 | 864m² |
区画面積 | 20m² |
区画数 | 募集区画数:20区画、うち利用区画数19区画(令和元年10月現在) |
利用料金 | 45,000円/年 |
駐車場 | 隣接地を栽培講習会開催時に使用可能 |
施設・設備 | パイプハウス(農機具庫)、水道、看板、フェンス |
栽培品目 | 個人区画:10品目、共同区画(空きスペースを利用)1品目(トウモロコシ) 春夏:トマト、ナス、ピーマン、エダマメ、キュウリ 秋冬:キャベツ、ハクサイ、ブロッコリー、ダイコン、ホウレンソウ |
栽培講習会 | 月1回程度開催 |
イベント | 年2回程度開催 |
2.開設の経緯
平成27年4月に都市農業振興基本法が施行され、それまで宅地化が前提であった市街化区域農地のあり方が抜本的に見直され、都市農業が農業への理解を促す情報拠点としての役割が期待されることとなった。一方、金沢市内の市街化区域では、維持が困難となる農地が増え、組合員からもその対策を求める声が上がっていた。
国の方針や法制度が変わっても、金沢市のような地方都市では依然として、市街化区域での都市農業や農地保全に対する行政の姿勢は、積極的とは言いがたい。
そのような状況の中、JA金沢市では自己改革の一端として、農業者の所得向上や地域住民の農・JAへの理解の促進に向けて、JA型体験農園の開設ならびに農家主体農園の開設支援に取り組むこととした。
平成28年度中頃から、体験型農園の調査・検討を開始し、先行して農園を開園していたJAぎふのマイラーニングガーデン等の視察等を経て、具体的に開園に向けた取組みに着手した。
当初は立地や農地の条件から、複数の候補地を挙げて検討に入ったが、地権者の意向と折り合わないなどの理由から、あらためて農園の園主候補者を探す方が優先すべきということになり、そこで、JA職員を定年退職していた武藤氏が園主候補として挙がった。
武藤氏はJAぎふへの視察にも参加し、市街化区域農地の活用方策として体験型農園の有効性を認識し、その取組みに感心したと言う。自身がJAでの営農部署での経験から野菜の栽培を教えることができることや、周辺には家庭菜園が好きな人が多くいるとの認識があり、また、JAが開設・運営をサポートするとのことから、体験型農園を開設する意志を固めた。
3.JAの開設・運営支援
JAの支援体制
農家が運営主体となる「JA支援型」は、JAが農園の開設・運営に関して全般的に支援を行う。運営については、開設から3年を目途として支援することとし、JA職員は栽培講習会に出席し、栽培管理の支援も行う。
農家が運営主体となる体験型農園を支援するために、下表のとおりJAでは複数の部署にわたってそれぞれの役割を定め、横断的な体制で取り組んでいる。
企画、計画、募集及び契約等の事務的な業務は主に資産相談課が担い、講習会の開催や農園管理等の現場の業務は主に担い手支援室が担っている。
運営方法
栽培講習会は概ね月1回開催している。参加できない数名の利用者に対しては、連絡を受けて個別にフォローしている。栽培講習会では、説明資料はJAが作成し、説明は園主が全体的な作業内容等を説明し、JA担い手支援室職員が、農薬等専門的なことについて説明するのが、おおよその役割分担となっている。
全くの初心者でも十分に野菜栽培ができるよう、いくつかの工夫をしている。事前の畝立てやマルチ張りは園主とJAで済ませたうえで、苗の定植は、春と秋それぞれの1回目の講習会の時に全て行う。追肥は何度もやらなくても済むように、講習会の時に多めに施すようにしている。
ただ、講習会後の必要な管理作業や収穫についても、一通り説明をしているが、初心者にはなかなか伝わらなかったようで、出来ていない利用者も多かった。その結果、園主やJA職員が、個人区画の管理作業を多く担うこととなった。今後工夫が必要と考えている。
4.広報・PRの取組み
戦略的な農園のPR
体験型農園は、JA金沢市にとって初めての取組みであり、この地域には同様の農園が無くほとんど認知されていないことから、ふれあい課が担当して、早い段階から戦略的に体験型農園の広報・PRに取り組んだ。
まずは、体験型農園が一般的な市民農園とは異なることを広く伝えることを一番の課題として捉え、JA広報誌1月号に体験型農園の募集案内を掲載し、続けて翌2月号には、資産相談課の活動を紹介する形で、体験型農園の仕組みと魅力について掲載した。
同時に、マスコミに関しては、農業新聞はもとより、組合員以外にも情報が届くように、一般紙に対してプレスリリースし、北國新聞と日経新聞から取材を受け、極力こちらの意図に沿った記事となるよう記者に丁寧に伝え、北國新聞で1月、日経新聞で3月、それぞれ記事が掲載された。
また、3月9日に実施した説明会がテレビ金沢のニュースで紹介され、これを見た視聴者からの応募もあった。
以上の広報・PRを行ったことで、農園から離れた地区からの応募者も比較的多い結果となった。
近隣地域を対象とした募集
農園の立地が住宅地内にあり、周辺人口も多いことから、当初農園利用者は近隣住民が多くなるだろうと想定していた。そこで、約2km圏の近隣地域を対象として、2,400枚のチラシのポスティングを実施した。しかし、その反応は少なく、近隣住民の利用者は少ない結果となった。
開園後のPR
体験型農園のPRは、利用者募集のためだけでなく、開園後も引き続き情報発信に努めている。農園の利用者は全部埋まっても20組に過ぎないが、開園後の農園での活動をPRしていくことで、より多くの人に対して農業への理解を広めていくことができると捉えている。
PRの1つとして、農園の1区画をテレビ金沢に利用してもらい、同局の塚田誉アナウンサーが、JAと農業を紹介する1コーナー「誉、農業はじめました」として、体験型農園での奮闘の様子を定期的にテレビで紹介しており、そのPR効果は大きい。
そのほか、インスタグラムでも、農園での活動の様子を継続的に発信している。
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5.利用者の特徴と声
利用者の属性
利用者の年齢層は、40歳代が多く、利用者類型で見ると、2世代家族が比較的多い。
時間距離圏別では、徒歩圏は少なく、車で10分以上が約7割を占め、こうしたことから、ほぼ100%車で来園している。
幅広い利用者層
子ども連れの家族や仕事が忙しい人、あるいは自宅が農園から遠い人などが、来園頻度が低く、生育管理や草むしりなどが行き届かず、収穫時期を迎えた野菜を穫りに来ないまま、無駄にしてしまったケースも見られた。
一方で、週に3回以上来園するなど、熱心な利用者もいる。利用者の中には正組合員の子弟もおり、これまでサラリーマンをしいて、体験型農園で栽培方法を学んでから、自分の畑で野菜づくりを始める予定だという。このため頻繁に来園し、園主やJA職員との質問等のやりとりも多い。体験型農園が農業後継者の育成の場ともなっている。
利用者の声
7月には利用者との意見交換会を行った。そこでは、収穫した野菜がとても美味しいという喜びの声や、こまめに園主やJA職員が管理作業のフォローをしてくれることで、立派な野菜が収穫できたとの、感謝の声があった。ただし、あまりやってあげてしまうと、自分から学ぼうとしないという問題があるとも、園主は受け止めている。
また、例えばキュウリなど、一度に獲れすぎて、食べきれないといった声も多かった。
一方、農薬散布を嫌う利用者がおり、できれば無農薬という声もある。農園側としては、必要な防除をして、良い野菜を作ろうと考えるが、農薬に対する悪いイメージの払拭は容易ではない。農薬の安全性等に関する正しい情報を伝えつつ、なるべく農薬を減らすなどの配慮もしている。