「体験型農園の普及と改善に向けた研修会」②JAぎふが取組む都市農業振興施策

JAぎふ 地域開発部 部長 野々村 隆史

10月22日に開催した「体験型農園の普及と改善に向けた研修会」において、取組み事例の1つ、JAぎふの報告について紹介します。

JAぎふは、岐阜市が三大都市圏以外では市街化区域農地面積(1,196ha)が全国2位となるなど、管内に多くの市街化区域農地を有しています。これまで、開発圧力や固定資産税の負担増、後継者不足等を背景として、都市農地は大幅に減少してきました。

JAぎふにとって、都市農地の保全・活用は喫緊の課題あり、いち早く体験型農園を開設するなど、都市農業振興施策の様々な取組みを紹介します。

1.JAぎふの概要

JAぎふの管内は、岐阜県の南部にあり、名古屋駅から岐阜駅まではJRの特急で20分足らずと近く、名古屋市からも近い距離にあります。

平成20年に広域合併し、県都岐阜市をはじめとする6市3町を管内とし、管内人口は約80万人にも及びます。正組合員3万8千人を抱え、貯金は今年1兆円を突破するなど、大きな事業規模を誇ります。また、枝豆、ほうれんそう、柿などの生産が盛んであり、直売所での販売額は合計で21億円を超えました。

管内には多くの市街化区域農地がありますが、三大都市圏特定市には該当せず、生産緑地制度も導入されていません。このような地方圏の都市部において、都市農地の保全・活用策に取り組んでいます。

2.体験型農園への取組み

都市農業振興の方針 

管内の具体例を挙げると、岐阜市の市街化区域にある島地区では、特産品である枝豆やホウレンソウの生産が盛んですが、後継者不足や宅地化の進行、営農環境の悪化などから、畑の面積はここ20年間で半減してしまいました。

従来のまま都市農業を続けることは難しいことから、市民農園や体験農園、あるいは農園付き戸建住宅を模索することとなりました。

そこで、JAでは主に市街化区域を対象として、平成29年に「都市農業に関するJAぎふの基本的考え方」として、以下の内容を組織決定しました。

都市農業振興の方針と農園の位置付け

① かけがえのない農地を少しでも守り、産直施設を中心に農業が継承できるように努力していくこと
② 都市農業が衰退しないように農家支援(作業面含)、多面的機能の発揮面での相談、提案活動を実践すること
③ 結果、「農」と「住」が共生する住みやすい都市環境作りに貢献していくこと

JAぎふの農園事業の経営

 JA農園事業を振り返ると、行政主導によって「レンタル菜園」の開設や、「健康ふれあい農園」の管理をしてきたところまでは、JAの主体性やまち中で作るといった発想もありませんでした。

 平成25年には、市街化区域農地に対して、岐阜市が補助金を設けて開設を支援することとなりました。市街化農地に対する行政支援の珍しさと驚きに加え、農地保全の必要性と限界を考え、JAでは「MSG(マイサニーガーデン)」として推進し、現在18園となっています。

 平成27年には、JA全中による「市民農園等研究会」にメンバーとして参加し、体験農園の先進事例から、志の高さや、農とその楽しさを伝える使命感を学びました。

 そこで同年から、「MLG(マイラーニングガーデン)」として、体験型農園を順次開園し、現在3園となっています。ただ、全国で体験農園が広がってきていますが、まだJAの関与度合いは薄く、JAグループでの早急な取組みが必要と考えます。

体験農園の開設・運営支援

体験農園を3園、開設・運営を支援してきましたが、JAが寄り添うことが絶対条件となります。体験農園も2つ目、3つ目とノウハウを蓄積することで、初期投資の抑制や、栽培指導と運営の改善を図ることができました。

管内支店職員にはその必要性を指導するも、当初は労力や資材提供に消極的でした。そこで、資産管理セミナー等での告知活動を通じ、現在は本部スタッフと支店職員が応援するサポート体制を整えました。

岐阜は大都市圏とは異なり、利用者の確保は簡単ではありませんが、生協の協力を得て、生協組合員向けにPRすることで、若年層を取り込むこともできました。

だだ、地域性もあって、年間利用料は28,000円、区画数もそれぞれ30区画前後と、収益性には課題もあります。

農家組合員向け体験農園提案資材
体験型農園の概要

3.農園付戸建賃貸住宅の普及

 都市農業の振興や保全に関しては、都市農業振興基本法等の法整備等、環境が整えられてきましたが、それだけで都市農業がまた活力を取り戻すとは考えづらいと思われます。岐阜では生産緑地制度も導入されておらず、市街化区域農地は宅地化ありきで、最近は転用よりも売却意向が増えています。

 そういう状況を踏まえると、農的土地活用のメニューを増やすことが必要であり、市民農園や体験農園、または防災協力農地といった活用について、行政と連携して進める必要があります。そして、新たな取り組みとして、民泊、古民家再生、CSA(Community Supported Agriculture)なども検討しています。CSAは地域で支える農業で労力的な支援、そしてクラウドファンディング等で金銭的な支援、そういった新たな仕組みが必要になると考えています。

 都市農地を保全することを優先して取り組んでいるものの、やむなく都市的土地活用する場合においても、「農」と「住」のコラボレーションによる活用を図るということで、現在、農園付き戸建賃貸住宅や就農体験付き高齢者向けシェアハウスにも力を入れています。JAとして、農を扱いながらトータル的なコーディネートを図って行くことが重要と捉えています。

体験農園からの新たな展開

農園付き戸建賃貸住宅のポイントと効果

 棟ごとに玄関先に農園を付けた戸建賃貸住宅の普及を進めています。入居者は、庭先で気軽に野菜づくりが楽しめることに加えて、JAから栽培指導を受けることができます。そして、子どもの情操教育にも効果的ということで、子育て世代にも大変好評です。

オーナーにとっては、“農”を通じて入居者との顔が見える関係を築くことが出来、単なる賃貸住宅とは異なる充実感が得られるものです。場合によっては、1区画ずつ売却することも可能で、相続対策としても有効となります。

一方、JAにとっても、JA改革に直結する取組みであり、賃貸住宅建設、建更、准組合員対策、JAのPR効果も大きいと言えます。

①農家の人手不足を解消し、第1次産業の高い伸び代を引き出せる
②人と人、地域のコミュニティを生み出し、地域を活性化できる
③入居者同士が、家族のような関係を築き、一人暮らしの不安や寂しさを解消できる
④高齢者が暮らしやすい、平屋建てにすることで、末永く住んでもらえ、オーナーにとっては長期安定経営が望める

4.行政等に対する取組み

JAにとって大切な農地を守っていくためには、新しい時代に即した都市農業振興・保全のメニューをJAが提案していくことが大切です。そのために、日頃から「資産管理セミナー」等を活用し、現状を伝え、その必要性を啓蒙していく地道な活動が必要となります。

そこで、内部的なセミナー、意見交換会、検討等を重ね、岐阜市や岐南町と都市農業振興のためのビジョンづくりを、スタートするところまで来ました。

行政等に対する直近の取組み

5.将来に向けて

さらに将来に向けて、主な取組みを3つ挙げると、1つ目は、農家組合員とともに、第2回となる先進地視察予定しています。

2つ目に、農家組合員と地域住民の相互理解を深める活動として、CSA及びクラウドファンディング導入に向けて検討して行きます。

また、相続が発生すると、都会に出ている相続人が農地を相続するものの、農地の管理をしないことが多い。そこで3つ目として、JAぎふ管内の市街化農地を対象とした保全管理を支援する事業「草刈隊」を導入し、農地の保全と耕作放棄地の解消を図っていきます。

JAぎふ農園情報

(注)本稿は、JAぎふ野々村部長の発表をもとに、弊社でまとめたものです。