令和3年度住宅市場動向調査結果ー民間賃貸住宅の平均居住人員は2人未満となる
(国土交通省)
国土交通省は4月26日、「令和3年度住宅市場動向調査」の結果を公表した。この調査は、令和2年度中に、住み替えや建て替え、リフォームを行った世帯を対象としてアンケート調査を実施した結果をとりまとめたもので、このうち本稿では三大都市圏を対象とした民間賃貸住宅に関する結果について紹介する。
今回の調査期間は令和2年度中とコロナ禍における調査となったが、概ね前年までの傾向を継続しており、民間賃貸住宅の平均居住人員は単身世帯が増加し2人未満となり、併せて少子化が進み18歳未満がいる世帯も2割を割り込んだ。依然として住み替え前より狭くなっても通勤時間の短縮を優先する傾向が続いており、特段コロナ禍の影響による変化は見られない。
1.世帯について
(1) 世帯主の年齢
民間賃貸住宅入居者の世帯主の年齢別割合は、30歳未満が34.8%で最も多く、次いで30歳代が25.6%、平均年齢は38.3歳となっている。前年度に比べて40歳代の割合は上昇、50歳代はやや低下した。(図1)。
図 1 世帯主の年齢
(2) 居住人数
民間賃貸住宅入居世帯の居住人員は、1人が45.4%と最も高く、次いで2人が30.1%と、2人以下の世帯が占める割合は約75%以上を占め、平均居住人数は1.9人と2人を下回った。過去の推移を見ると、平成28年度から6年連続で1人世帯の割合が上昇し。(図2)。
図 2 民間賃貸住宅の居住人数
(3) 高齢者と18歳未満のいる世帯
民間賃貸住宅入居世帯のうち、高齢者のいる世帯は9.7%となっており(図3)、そのうち高齢者のみの世帯が55.4%を占めている。
一方、18歳未満のいる世帯は19.3%で、5年連続で低下した。平成30年度までは3割を超えていたが、3年後の今回2割を下回り、大幅な低下となっている。
図 3 高齢者と18歳未満がいる世帯の内訳
(4) 世帯年収
民間賃貸住宅入居世帯の世帯年収は、「400万円未満」の世帯が29.6%で最も高く、次いで「400万~600万未満」が23.3%となっている。平均世帯年収は516万円で、前年度(486万円)より上昇した(図4)。
図 4 世帯年収
(5) 勤務先からの住宅手当
勤務先から住宅手当を受けている世帯は32.2%で、前年度より上昇した。
一方、住宅手当を受けている世帯の平均手当額は月額33,161円であり、前年度と比べて低下した(図5)。
図 5 勤務先からの住宅手当の有無と月額
2.住み替えに関する意思決定
(1) 住宅の選択理由
民間賃貸住宅入居世帯における住宅の選択理由(図6)は、「住宅の立地環境が良かったから」が52.7%と最も多く、次いで「家賃が適切だったから」が49.6%、「住宅のデザイン・広さ・設備等が良かったから」が40.0%となっている。
過去5年間の推移を見ると、昨年まで1位だった「家賃が適切だったから」が低下し、「住宅の立地環境が良かったから」が上昇したことで、今回1位と2位が入れ替わった。
図 6 住宅の選択理由
(2) 設備等に関する選択理由
住宅の選択理由となった設備等として(図7)、「間取り・部屋数が適当だから」が60.4%で最も多く、次いで「住宅の広さが十分だから」が52.6%となっている。主にこの2つの理由が大きいものの、前年度と比べるといずれもその割合は低下している。
一方、「住宅のデザインが気に入ったから」(39.1%)や「台所の設備・広さが十分だから」(31.3%)が前年度より上昇した。特に「住宅のデザイン」を選択理由とする傾向は強まっており、過去10年間でも今回最も高い割合となった。
なお、「住宅の広さが十分」とする回答については、後述の住み替え前後の延床面積(図11)では、住み替え後の方が狭くなっていることから、より広い住宅を求めているわけではなく、必要な広さを満たしているという意味と解釈できる。
図 7 設備等に関する選択理由(複数回答)
また、住み替え前後の高齢者対応設備及び省エネ設備の比較を見ると(図8)、「段差のない室内」(13.2%→18.6%)や「浴室・トイレの暖房」(17.0%→22.3%)といった、高齢者に限らず広い年齢層からニーズがあると考えられる設備が、住み替え前より住み替え後の整備率が高くなっている。
図 8 住み替え前後の比較:高齢者対応設備及び省エネ設備
3.住み替え前後の比較
(1) 家賃の比較
住み替え前後の月額家賃を見ると、平均72,684円から75,259円へと、2,575円上昇しており、住み替え後の平均家賃は前年度より約753円上昇した(図9)。
図 9 住み替え前後の家賃
また、家賃の負担感(図10)を見ると、「少し負担感がある」とする回答が40.2%と最も多く、「非常に負担感がある」及び「少し負担感がある」を合わせて48.9%が「負担感がある」と回答し、前年度(55.1%)よりもやや低下した。過去5年間の推移を見ても、「負担感がある」とする割合は低下傾向にある。
図 10 家賃の負担感
(2) 面積の比較
住み替え前後の延床面積については、平均67.4m²から47.7m²へと、19.7m²、29%小さくなった(図11)。広さを求める層は賃貸から分譲に移行するケースが多いと考えられ、より広い賃貸住宅への住み替えニーズは少ない。
図 11 住み替え前後の延床面積
(3) 通勤時間等の比較
住み替え前後の通勤時間を見ると、平均で39.7分から33.2分へと6.5分短縮している(図12)。住み替え前ですでに40分を切っているが、住み替えの際にさらに短縮したいというニーズが大きいことがうかがえる。
図 12 住み替え前後の通勤時間
また、最寄りの公共交通機関までの距離については(図13)、住み替え前の1.3kmから住み替え後は1.1kmと短くなっており、鉄道駅等に近い賃貸住宅への住み替えニーズも大きい。
これらの傾向は以前から続く継続的なものであり、民間賃貸住宅の住み替えでは、通勤時間の短縮や駅に近いなどの利便性の高い地域に住み替えることを優先し、住宅の面積が以前よりやや狭くなっても構わないという考える人が多いと見られる。
図 13 最寄りの公共交通機関までの距離
4.賃貸住宅に関して困ったこと
民間賃貸住宅入居世帯の27.0%は、困った経験があるとしている。その内容について、契約時においては、「敷金・礼金などの金銭負担」(44.5%)や「連帯保証人の確保」(27.1%)等の割合が高い。
入居時においては、「近隣住民の迷惑行為」(39.4%)や「家主・管理会社の対応」(25.2%)等が高く、退去時においては、「修繕費用の不明朗な請求」(24.5%)等が高い結果となっている。
図 14 賃貸住宅(普通借家)に関して困った経験
■住み替えニーズは1人世帯の増加と通勤時間の短縮
今回の調査結果においては、単身世帯をはじめとする小世帯の割合が増加する中で、平均居住人数は1.9人と2人を割った。これまでも、賃貸住宅の入居者は、学生や結婚前の1人世帯と結婚して間もない夫婦2人世帯が主な需要者層であり、以前は両者同じくらいの割合で推移していたが、昨年度から1人世帯の方が大きく上回り、さらに3人以上の世帯が低下した。併せて、少子化等の影響もあって、18歳未満がいる世帯も2割を下回った。
なお、高齢化の進展によって、高齢者の単身ないし2人世帯が増えているものの、高齢者は持ち家が多い、あるいは同じ賃貸住宅に長期間住み続ける傾向があるため、賃貸住宅の住み替えの主な需要者層とはなりにくい。
また、通勤時間の短縮ニーズについても、継続的に強まっている。コロナ禍によるリモートワークの普及によって、郊外部の人気が高まっているとも言われているが、分譲戸建住宅への住み替えにおいてその傾向が見られるものの、民間賃貸住宅への住み替えにおいては、あまり変化は見られない。今後も、大都市圏中心部等への通勤利便性の高い立地の優位性は、継続的に強まっていくものと考えられる。