移動人口と昼間人口(2020年国勢調査)/総務省統計局ー移動世帯のうち単独世帯が過半数を占める
総務省統計局は2020年国勢調査について、2月に「移動人口の男女・年齢等集計」、7月に「従業地・通学地による人口・就業状態等集計」を公表した。人口というと一般的には「常住人口」を指すが、「移動人口」は5年前の調査時点以降に転居した人口で、「昼間人口」は常住人口(夜間人口)に従業や通学による流出入人口を差し引きした昼間の人口である。
常住人口に加えて、移動人口や昼間人口といった人の動きは、地域経済や住宅需要の動向を見るうえで重要な指標となる。
これによると全国で、移動人口の年齢構成では39歳以下の若い世代が61%を占めており、移動世帯の家族類型では単独世帯が50%を占めている。
昼間人口については、全国の市区町村のうち夜間人口が増加しているのは21%であるのに対して、昼間人口が増加しているのは23%と、昼間人口が増加した市区町村の方がやや多い。
1.移動人口
(1) 移動人口の年齢
5年前の常住地と現住地が異なる「移動人口」についてその年齢構成をみると(図1)、全国では20歳~39歳の年齢層が42.5%を占め、これは常住人口の構成比の2倍以上の高い割合となっている。これと19歳以下を合わせた39歳以下の若い年齢層の割合が61%を占めている。
都道府県別に39歳以下の年齢の割合をみると(表1、図2)、滋賀県が65.8%で最も高く、次いで愛知県(65.3%)、石川県(63.9%)、岐阜県(63.8%)、岡山県(63.6%)などとなっている。
一方、65歳以上の高齢者の割合が最も高いのは秋田県(19.9%)で、次いで高知県(19.3%)、和歌山県(18.5%)、徳島県(18.0%)、青森県(17.4)などとなっている。
図 1 常住人口と移動人口の年齢構成
(2) 移動世帯の家族類型
移動人口について世帯単位でその家族類型をみると(表1、図3)、全国では核家族世帯が45.8%、単独世帯が50.0%と、単独世帯の方がやや多い。
核家族世帯の割合は、奈良県が54.7%と最も高く、次いで和歌山県(52.5%)、佐賀県(50.8%)、兵庫県(50.6%)、沖縄県(50.0%)などとなっている。
一方、単独世帯は、東京都と京都府がともに55.9%と最も高く、次いで石川県(53.8%)、北海道(53.5%)、岩手県(51.4%)などとなっている。
さらに人口50万人以上の市及び東京都特別区でみると、豊島区が67.2%と最も高く、次いで新宿区(66.3%)、中野区(65.1%)、渋谷区(62.9%)、京都市(61.5%)などとなっている。
図 2 移動人口の年齢・39歳以下の割合
図 3 移動世帯の家族類型・単独世帯の割合
(3) 移動人口の5年前の常住地
移動人口の5年前の常住地、すなわちどこから転居してきたかについて、他市町村からの移動した割合は、埼玉県が61.2%と最も高く、次いで千葉県(61.1%)、滋賀県(59.6%)、奈良県(58.6%)、山梨県(58.6%)などとなっている。埼玉県と千葉県、山梨県は東京都から、滋賀県は京都府から、奈良県は大阪府からの移動が多くなっている。
一方、自市町村内での移動の割合は、宮崎県が59.9%と最も高く、次いで大分県(59.1%)、新潟県(57.7%)、愛媛県(58.5%)、秋田県(57.7%)などとなっている。
表 1 都道府県別移動人口
2.昼間人口
(1) 都道府県別昼間人口
都道府県別に昼間人口をみると、東京都が1,631万5千人と最も多く、次いで大阪府(918万5千人)、神奈川県(846万8千人)、愛知県(762万9千人)、埼玉県(658万1千人)などとなっている。概ね常住人口が多い都府県だが、このうち神奈川県や埼玉県は、東京都への通勤・通学による流出人口が流入人口を大きく上回っている。
昼間人口を5年前と比べると、8都県で増加、39道府県で減少している。最も増加したのは東京都で50万8千人の増加、次いで神奈川県(10万9千人増)、埼玉県(8万3千人増)、千葉県(6万4千人増)と、東京都をはじめとした首都圏での増加が目立っている。また、夜間人口が増加した8都県全てで昼間人口も増加している。
(2) 政令指定都市及び県庁所在地の昼間人口
昼夜間人口比率が高いということは、周辺市町村から通勤や通学によって人が集まって来ているということで、企業や公共機関等の働く場や学校が多いということである。そのような都市としては、主に東京都特別区や政令指定都市などの大都市、あるいは県庁所在地が概ね該当することから、これらの主要都市について昼間人口等を整理した(表1)。
これらの主要都市の中で、昼夜間人口比率の最も高い都市は大阪市(128.4)で、さらに区別に見ると、中央区(433.1)、北区(301.6)、西区(169.4)などが特に高い。
次に高いのが東京都特別区部(126.8)であり、昼間人口と夜間人口との差は261万人にも及ぶ。さらに区別に見ると、千代田区が1,355.4と突出して多く、次いで中央区(374.1)、港区(373.4)、新宿区(227.1)、渋谷区(226.1)などとなっている。
次いで甲府市(113.1)、名古屋市(111.2)までが昼夜間人口比率が110を超えており、その他、那覇市(109.3)、水戸市(109.2)、福井市(109.1)、福岡市(108.8)、京都市(108.4)などとなっている。
一方、政令指定都市や県庁所在地であっても、大都市圏の中にあってその中心都市への通勤・通学による流出人口が多いために、昼夜間人口比率が100を下回っている都市が9都市ある。首都圏にある5つの政令指定都市はいずれも、東京都心部への流出人口が多いために、昼夜間人口比率は100を下回っており、特に相模原市は88.9と最も低い。
また、昼間人口の増加率(2015年比)を見ると、さいたま市が4.6%増と最も高く、併せて夜間人口も4.8%と高い増加率となっている。次いで川崎市(3.1%)、福岡市(2.9%)、東京都特別区部(2.6%)、横浜市(2.3%)などとなっており、これらの都市は夜間人口の増加率も高い。
一方、昼間人口の減少率は、長崎市が5.5%減と最も大きく、次いで青森市(-4.4%)、福島市(-4.3%)、高知市(-4.0%)、盛岡市(-3.9%)などとなっており、これらの都市は、夜間人口の減少率も大きい。
表 2 昼間人口、夜間人口(政令指定都市・東京都特別区、県庁所在地)
(3) 昼夜間人口比率の高い市区町村
全国の市区町村について、昼夜間人口比率の高い上位30市区町村(東京都特別区部及び政令指定都市についても区単位とした)をみると(表3)、東京都千代田区が、夜間人口が少ないこともあって1,355.4と際だって高くなっておいる。次いで、福島県大熊町(588.5)、大阪市中央区(433.1)、東京都中央区(374.4)、東京都港区(373.4)、名古屋市中区(316.4)、大阪市北区(301.6)と、主に三大都市圏の中心部にある区で占められている。
上記の福島県の大熊町をはじめ、同県の富岡町、浪江町、葛尾村、飯舘村も30位内に入っており、これらはいずれも、2011年の福島第一原発事故による放射能汚染による「帰還困難区域」が設定された町村で、居住が制限されているために夜間人口はあまり増えない中で、復興のための昼間人口が先行し、昼夜間人口比率が高いといった特殊事情によるものである。
その他、地方四市の広島市中区、札幌市中央区、福岡市博多区等も30位内に入っている。
一方で、夜間人口は少ないながらも、企業等の大規模な事業所が存在する愛知県飛島村、栃木県芳賀町、京都府久御山町、宮城県大衡村、青森県六ヶ所村、北海道泊村等も30位内に入っている。
表 3 昼夜間人口比率上位30市区町村
(4) 昼間人口増加率の高い市区町村
全国の市区町村について、昼間人口の増加率が高い上位30市区町村を見ると(表4)、上位6位までが、前述したとおり福島県の原発事故の避難区域の解除や復興等の特殊事情の影響によるものである。
上記に該当する福島県内市町村を除いた市区町村では、千葉県流山市が20.5%増と最も高く、次いで沖縄県中城村(19.0%)、秋田県東成瀬村(16.6%)、千葉県印西市(15.5%)、福岡県福津市(14.0%)などとなっている。
流山市は、つくばエキスプレスの開業以降東京都心への利便性が高まり沿線開発も進んだことから、ベッドタウンとして人口(夜間人口)が増加し、前述の事情による福島県内の町村を除けば全国の市町村で1位の増加率(14.6%)となっているが、昼間人口はそれを上回り増加している。
表 4 昼間人口増加率上位30市区町村
(5) 昼夜間人口比率の低い市区町村
昼夜間人口比率の低い、すなわち昼間は他市町村に通勤・通学で流出する割合が高い市区町村をみると(表5)、宮城県七ヶ浜町が67.1と最も低く、次いで富山県船橋村(70.7)、山形県中山町(73.4)、和歌山県日高町(73.5)、山形県山辺町(74.2)などとなっており、町村内に働く場が少なく、かつ雇用の場が多い都市に隣接している町村が多い。
また、大都市圏内の東京都狛江市(74.3)、川崎市宮前区(74.5)、埼玉県富士見市(75.4)、愛知県大治町(75.9)、さいたま市南区(76.4)等は、大都市への通勤利便性が高いベッドタウンとしての昼夜間人口比率は低いものの、いずれも昼間人口は増加している。
表 5 昼夜間人口火率下位30市区町村