令和4年度地価公示(国土交通省)

国土交通省は3月22日、令和4年1月1日時点の地価公示を発表した。これによると、新型コロナウイルス感染症の影響が徐々に緩和される中で、住宅地、商業地のいずれも2年ぶりに上昇に転じ、全体的に回復傾向が見られた。

1.全国の動向

■住宅地、商業地ともに2年ぶりに上昇に転じる

全国平均の地価の変動率では、住宅地は0.5%上昇(昨年▲0.4%)、商業地は0.4%上昇(同▲0.8%)と2年ぶりに上昇に転じた(表1)。新型コロナウイルス感染症は未だ収束していないものの、地価への影響は緩和されたと見られるが、コロナ前の水準にはまだ回復していない。

変動別地点割合でも、上昇地点の割合が住宅地では43.5%(同19.1%)、商業地では40.8%(同17.0%)と上昇地点が大幅に拡大した(表2)。

表1 圏域別・地方別対前年平均変動率

表2 都道府県別・用途別対前年平均変動率

2.圏域・地方別の動向

■三大都市圏の住宅地は全ての都市圏で2年ぶりに上昇に転じる

三大都市圏では全ての都市圏において、住宅地は上昇に転じ、商業地は横ばいとなった大阪圏を除いて上昇に転じた(表1)。

東京圏の住宅地は0.6%上昇(昨年▲0.5%)、商業地は0.7%上昇(同▲1.0%)といずれも上昇に転じた。

大阪圏の住宅地は、0.1%上昇(同▲0.5%)と上昇したものの上昇幅はわずかで、商業地は横ばいであった。

名古屋圏の住宅地は1.0%上昇(同▲1.0%)、商業地は1.7%上昇(同▲1.7%)といずれも上昇に転じた。

■地方圏の住宅地は2年ぶり上昇に転じ、地方四市は上昇幅を拡大

地方圏の住宅地は0.5%上昇(昨年▲0.3%)、商業地は0.2%上昇(同▲0.5%)と、いずれも2年ぶりに上昇に転じた(表1)。

一方、昨年も上昇を維持した地方四市は、住宅地5.8%上昇(同+2.7%)、商業地5.7%(同+3.1%)と上昇幅を拡大した。

地方別の住宅地では、昨年も上昇を維持した北海道及び九州・沖縄地方が上昇となり、東北地方が上昇に転じ、北陸及び中国地方が横ばい、その他の地方は下落となった。特に北海道は上昇率4.6%(同+1.5%)と大幅に上昇率を拡大した(図2)。

3.都道府県の動向

■住宅地の上昇率は北海道が2年連続全国1位

都道府県別の地価変動率は(図3、図4、表2)、住宅地では北海道が4.6%上昇で2年連続の全国1位となった。昨年は福岡県とともに1.5%上昇で1位だったが、今年は2位の福岡県(3.2%上昇)を1.4ポイント引き離して1位となった。3位以降は、宮城県(+2.8%)、沖縄県(+2.0%)と続いた。

これらの住宅地の地価上昇率を牽引しているのは、都市圏中心都市の成長や都市圏の拡大であり、札幌市、福岡市、仙台市、那覇市などを中心都市とする都市圏において、周辺地域を含めた郊外部での地価上昇が目立っている。

また、これらを含めて上昇したのは20都道府県と、昨年の8都道府県から大幅に増加した。

住宅地の上昇地点の割合は(表2、図4)、沖縄県が83.7%で最も高く、次いで東京都が76.3%、福岡県74.4%、宮城県67.5%などとなっており、上昇地点割合が50%以上を占めたのは12都道府県であった。

昨年の変動率と比較すると、45都道府県で昨年よりも上昇率が拡大または下落率が縮小しており、残り2県(和歌山県と愛媛県)は下落率が昨年と同じであった。

■住宅地の下落率は和歌山県等3県が1.0%以上の下落

今年の住宅地率の変動率は、27県が下落となった。特に下落率が大きかったのは、和歌山県▲1.3%(昨年▲1.3%)、愛媛県▲1.1%(同▲1.1%)、鹿児島県▲1.0%(同▲1.1%)と、3県が1.0%以上の下落率となった。

住宅地の下落地点の割合は(表2、図4)、愛媛県84.3%、和歌山県82.1%、香川県81.8%など3県で80以上を占めたのをはじめ、20都府県で下落地点割合が50%以上を占めた。

また、下落から上昇に転じたのは、愛知県(昨年▲1.0%→今年+1.0%)、東京都(▲0.6%→+1.0)、埼玉県(▲0.6%→+0.5%)など、11都府県となっており、このうち三大都市圏の都府県が6県含まれる。

■商業地の上昇率は福岡県が2年連続1位

都道府県別の商業地の地価変動率は(表2)、福岡県が4.1%上昇で2年連続の1位となった。次いで、北海道(+2.5%)、宮城県(+2.2%)、愛知県(+1.7%)、千葉県(+1.2%)と続いた。

特に福岡県は、平均上昇率で2位と1.6ポイント差があるうえに、全国の商業地の上昇率上位10地点のうち7地点を占めた。博多駅周辺・天神地区の両地区に近接する利便性が良好で、かつ、割安感のある地域の地価は上昇が続いており、また、令和5年に延伸開通する地下鉄新駅の周辺では、利便性の更なる向上が見込まれることからオフィス需要が引き続き旺盛となっていることが、地価を押し上げている。

図3 都道府県別住宅地の対前年平均変動率


表 2 都道府県別・用途別対前年平均変動率

4.市区町村の動向

■全国の住宅地上昇率上位100位のうち北海道がほぼ独占

全国の住宅地上昇率上位100位のうち、実に96地点が北海道の地点で占められるという、異例の事態となった。その内訳は、江別市28地点、恵庭市18地点、北広島市14地点、札幌市13地点、千歳市9地点、石狩市9地点などとなっている。いずれも札幌市に近接する地域で、札幌市内に比べて割安感のある郊外部の住宅需要が高まっている。

江別市は、上位100位に入った地点数が最も多いこともあり、平均変動率は16.9%上昇と極めて高い上昇率となった。
また、北広島市は、上昇率上位10位のうち7地点を占めた。全国上昇率1位となったのは、北広島市の2023年春に開業を予定している北海道ボールパークと新駅等周辺開発が進むエリアに近い住宅地(北広島-1、共栄町1丁目10番3、上昇率26.0%)で、北広島市は商業地においても、北広島市駅西口再開発が進む地点が19.6%上昇で全国1位となった。

■地方四市では、札幌市と福岡市が高い上昇率を維持

地方四市の中でも、特に札幌市と福岡市の住宅需要が非常に堅調となっている(表3、表4)。
札幌市の住宅地は9.3%上昇と(全国2位、昨年+4.3%)、地方四市の中で最も上昇率が高く、特に、清田区、手稲区、東区の3区で10%超の高い上昇率となった(表4)。

福岡市の住宅地は6.1%上昇し(同7位、昨年+3.3%)、⼈⼝増加や福岡都市圏の拡大を背景に引き続き需要が堅調で、特に博多区は10.8%と高い上昇率となった。さらに、福岡市に近接する大野城市(+7.3%、同4位)、筑紫野市(+7.2%、同5位)、春日市(+6.7%、同6位)は、福岡市よりも高い上昇率となっている。

仙台市の住宅地は4.4%上昇し(同8位、昨年+2.0%)、広島市の住宅地は0.4%上昇(同62位、昨年+3.1%)となった。
その他の地方都市では、北海道帯広市が7.9%上昇(昨年+4.1%)で全国3位となった。

■東京圏では、再び都心部の地価上昇傾向が強まる

東京圏において昨年は、が特別区23区のうち21区で住宅地の変動率が下落となったが、今年は23区全てが上昇となった。特に、中央区(+2.9%、全国13位)、豊島区(+2.6%、同17位)、文京区(+2.5%、同20位)、港区(+2.4%、同21位)、千代田区(+2.1%、同30位)など、都心部での上昇が目立つ。これらの地域では高額マンション需要が旺盛で、首都圏マンション価格の上昇を牽引している。

一方郊外部では、浦安市(+3.3%、同9位)、和光市(+2.3、23位)、市川市(+2.3%、23位)、稲城市(+2.3、23位)などで上昇率が高く、これらの地域では戸建住宅の需要が高まっている(表3・上位30位)。

一方、変動率下位を見ると(表3・下位30位)、東京圏の縁辺部に位置する神奈川県の5市、千葉県の2市が含まれている。大都市圏内にあっても、都心への通勤利便性の低い縁辺部の住宅需要は低下傾向が続いている。

表 3 三大都市圏及び地方圏主要都市の地価変動率

(注)集計の対象は、三大都市圏の全ての市及び地方圏の人口10万人以上の市。
(注)集計の対象は、三大都市圏の全ての市及び地方圏の人口10万人以上の市。

表 4 地方四市の区別住宅地変動率と平均地価

5.今後の動向は不透明

■コロナ禍が収束しないままウクライナ侵攻で不透明感が増す

今回の公示地価は、新型コロナウイルス感染症の影響が緩和し、緩やかながらも回復の兆しがあったように見える。
コロナ禍によって、暮らしや働き方、そして住まい方に対する考え方に変化が見られる中で、リモートワークを含めて住宅で過ごす時間も増えたために、より住宅を重視する傾向が強まったためか、住宅需要は堅調に推移しており、今回の地価上昇に表れている。

一方、昨年見られた郊外部の住宅需要の高まりは、今年の結果を見る限り特に目立った傾向とは言えず、大都市圏の住宅需要は都心部のマンション需要と郊外部の戸建住宅需要の2つに分かれているように見える。しがたって、戸建志向が強い地方では、地方四市等を中心に郊外部の住宅需要が伸びている傾向が見られる。

一方、コロナウイルスの影響は緩和してきたとはいうものの、依然として収束はしておらず、今後のWithコロナ、あるいはAfterコロナの見通しは未だ難しい。さらに、緊迫していたウクライナ情勢は大方の予想を裏切り、ロシアがウクライナを侵攻し、長期化の様相も呈している。これまで、平和を前提として営まれてきた経済活動が、ウイルスや戦争の脅威に不透明さを増している。