令和3年度地価公示が公表される(国土交通省)
国土交通省は3月23日、令和3年1月1日時点の地価公示を発表した。これによると、新型コロナウイルス感染症の影響等によって需要が落ち込んだことにより、全用途平均は6年ぶり、住宅地は5年ぶり、商業地は7年ぶりに下落に転じなるなど、前年までの上昇傾向から一転して軒並み下落となった。
1.全国の動向
住宅地は5年ぶり、商業地は7年ぶりに下落に転じる
全国平均の地価の変動率では、住宅地は0.4%下落(昨年+0.8%)と、5年ぶりに下落に転じ、商業地は0.8%下落(同+3.1%)と7年ぶりの下落となった(表1)。新型コロナウイルス感染症の影響で、様々な経済活動において自粛ムードが拡がり、商業地をはじめ地価を押し下げた。
全国における変動別地点割合でも、下落地点の割合が住宅地では57.8%(昨年35.1%)、商業地では63.7%(同26.3%)と下落地点が大幅に拡大した(表2)。
表 1 圏域別・地方別対前年平均変動率
2.圏域・地方別の動向
三大都市圏の住宅地:東京圏が8年ぶり、大阪圏が7年ぶり、名古屋圏が9年ぶりに下落
圏域・地方別に地価の変動率では(表1)、三大都市圏では全ての都市圏で住宅地、商業地ともに下落に転じ、特に大阪圏や名古屋圏の商業地で大きく下落した。
東京圏の住宅地は0.5%下落(昨年+1.4%)と8年ぶりに下落に転じ、東京都、神奈川県、埼玉県がいずれも0.6%下落と下落に転じた中で、千葉県は0.1%上昇(同+0.7%)と三大都市圏の中で唯一上昇を維持した(表2)。また、商業地は、1.0%下落(同+5.2%)と8年ぶりに下落に転じた。
大阪圏の住宅地は、0.5%下落(同+0.4%)と7年ぶりに下落に転じ、商業地は1.8%下落(同+6.9%)と8年ぶりに下落に転じた。
名古屋圏の住宅地は1.0%下落(同+1.1%)と9年ぶりに下落に転じ、商業地は1.7%下落(同+4.1%)と8年ぶりに下落に転じた。
地方圏は住宅地:3年ぶりに下落、地方四市は上昇を維持
地方圏の住宅地は0.3%下落(昨年+0.5%)と3年ぶりに下落に転じ、商業地は0.5%下落(同+1.5)と4年ぶりに下落に転じた。
一方で、地方四市は全用途、住宅地、商業地いずれも、上昇幅は縮小したものの、住宅地2.7%上昇(同+5.9%)、商業地3.1%(同+11.3%)と上昇を維持した。
地方別の住宅地では、北海道及び九州・沖縄地方が上昇となり、その他の地方は下落となり、特に中部地方(▲1.4%)や近畿地方(▲1.3%)で大きく下落した。このように地方圏においても、住宅地、商業地ともに下落に転じたが、三大都市圏に比べるとその下げ幅は小さい(図2)。
3.都道府県の動向
住宅地の上昇率は北海道と福岡県が1位
都道府県別の地価変動率は(図3、図4、表2)、住宅地では北海道と福岡県がともに1.5%上昇で、全国1位となった。いずれも地方圏の中では新型コロナの累計感染者数が多い道県だが、地価への影響は比較的小さかった。
一方、昨年まで4年連続で1位だった沖縄県は1.0%上昇(昨年+9.5%)と上昇を維持したものの3位に後退し、また、宮城県が同率の1.0%上昇(昨年+3.5%)で3位となった。
これらを含めて、上昇を維持したのは8道県と、昨年の20都道府県から大幅に減少した。
上昇地点の割合は(表2)、福岡県が64.0%、宮城県が58.2%、沖縄県が55.6%となっており、上昇地点が過半数以上を占めたのはこの3県のみであった。
また、昨年の変動率との比較で言うと、昨年よりも上昇率が拡大、または下落率が縮小した都道府県は1つもないが、福井県(▲1.1%)と秋田県(▲0.9%)は、昨年と変動率は変わらず、コロナ禍の影響は特に見られない。
図3 都道府県別住宅地の対前年平均変動率
住宅地の下落率は静岡県等11県が1.0%以上の下落
今年の住宅地率の変動率は、38都府県が下落となった。特に下落率が大きかったのは、静岡県▲1.5%(昨年▲0.7%)、和歌山県▲1.3%(同▲1.2%)、滋賀県▲1.3%(同▲0.8%)、岐阜県▲1.3%(同▲0.8%)など、11県が1.0%以上の下落率となった。
下落地点の割合は(表2、図4)、静岡県が92.3%、岐阜県が89.7%、徳島県が87.4%など28都府県で下落地点が過半数以上を占め、うち12府県では80%以上を占めた。
また、上昇から下落に転じたのは、東京(昨年+2.8%→今年▲0.6%)や愛知県(+1.1%→▲1.0)、大阪府(+0.4%→▲0.5%)など、11都府県となっており、このうち三大都市圏の都府県が6県含まれる。
図4 都道府県別住宅地の下落地点の割合
表 2 都道府県別・用途別対前年平均変動率
4.市区町村の動向
東京圏:アクアライン周辺が地価上昇
東京圏では、前年までの地価上昇の反動もあって全般的に下落傾向が強まったが、千葉県のアクアライン周辺の3市、君津市(+2.3%、全国9位、昨年+4.3%)、木更津市(+1.2%、全国15位、昨年+2.3%)、袖ケ浦市(+1.1%、全国16位、昨年+2.0%)は住宅需要が堅調で、比較的高い上昇率を維持した(表3)。
このほか、東京都に近接する埼玉県の3市、戸田市(+1.5%上昇、全国13位、昨年4.1%)、川口市(+1.0%、全国18位、昨年+4.3%)、蕨市(+1.0%、全国17位、昨年+4.3%)等も上昇を維持した。
コロナ禍によるリモートワークの普及等によって、郊外部の住宅需要が高まっていると言われているが、公示地価を見る限り地価が上昇したのは一部地域に限られ、しかも、いずれも以前から上昇傾向が強まっていた地域であり、前年の上昇率を下回っている。
東京圏:東京都特別区の急落と東京圏縁辺部の下落幅拡大
昨年の三大都市圏及び地方圏主要都市の住宅地地価変動率では、東京都特別区の一極集中の様相となっていたが、今年は、港区と目黒区の2区のみがともに0.3%で上昇を維持したものの、他の21区が下落に転じ、大幅な急落となった(表3・上位30市)。
一方、下位を見ると(表3・下位30市)、東京圏の縁辺部に位置する神奈川県の西部や三浦半島の5市、東京都の多摩地域の3市が含まれる。これらの多くが前年の変動率でも下位に位置し、今年さらに下落幅が拡大している。同じ東京圏郊外部でも、以前から地価の下落傾向が強まっていた地域は、コロナ禍の生活変化を受けても地価に現れるほど評価が高まっているわけでなないようだ。
地方四市、特に札幌市と福岡市は高い上昇率を維持
地方圏の中でも、地方四市では上昇を維持しており、特に、札幌市と福岡市の住宅需要は非常に堅調である(表3)。
札幌市の住宅地は4.3%上昇と(全国3位、昨年+7.1%)、地方四市の中で最も上昇率が高く、特に、白石区、厚別区、手稲区、北区の4区で5%台の高い上昇率となった(表4)。さらに隣接する江別市が大幅に上昇幅を拡大し、5.1%上昇(昨年+1.5%)で全国2位となった。
福岡市の住宅地は3.3%上昇し(全国5位、昨年+6.8%)、⼈⼝増加や福岡都市圏の拡大を背景に引き続き需要が堅調で、特に、博多区(+7.8%)、中央区(+4.9%)で高い上昇率となった。さらに、福岡市中心部と鉄道、道路ともに利便性の高い筑紫野市は6.5%上昇と、全国1位となった。その他にも福岡市に隣接する春日市(+2.8%、全国6位)、大野城市(+2.7%、全国7位)、糸島市(+1.5%、全国12位)で、比較的高い上昇率を維持している。
仙台市の住宅地は2.0%上昇し(全国8位、昨年+5.7%)、広島市の住宅地は0.4%上昇と(全国31位、昨年+3.1%)なった。
その他の地方都市の中では、北海道帯広市が4.1%上昇(昨年+2.9%)で全国4位、山形市が2.5%上昇(同+3.1%)で全国6位など、大きく順位を上げた。
表 3 三大都市圏及び地方圏主要都市の地価変動率
(注)集計の対象は、三大都市圏の全ての市及び地方圏の人口10万人以上の市。
表 4 地方四市の区別住宅地変動率と平均地価
5.今後の動向を注視
コロナ禍による影響の長期化と郊外部需要の動向
今回の公示地価は、新型コロナウイルス感染症の影響が色濃く出た形となった。公示地価の時点である1月1日以降に2度目の緊急事態宣言が出され、その後3月21日に緊急事態宣言は解除されたものの、未だ収束にはほど遠く、リバウンドや変異株の感染拡大が懸念される。
コロナ禍が長期化することで、さらに国民の生活や社会経済活動への影響は大きくなり、地価にも反映されることとなる。
一方で、コロナ禍によって、暮らしや働き方、そして住まい方に対する考え方に変化が見られる。働く場所としての大都市中心部へと一極集中が進行していたものが、リモートワークの普及や密を避ける生活の中で、郊外部でのゆとりある住まい方の需要が高まっていることが、今回の地価の変動率にも、一部見られる。
ただし、同じ郊外部でも地価が上昇しているのは、郊外部の中でもコロナ禍以前から地価が上昇傾向にあった地域であり、依然として地価の下落が止まらない郊外地域も多い。
いずれにせよ、今後コロナウイルス感染症の収束や、その後の経済回復時期を見通すことは困難であるものの、経済や地価の動向を注視していくしかない。