体験型農園の運営の検証-利用者アンケート結果から-
JA全中では昨年12月3日、「体験型農園の普及と改善に向けた研修会」を開催した。その中で筆者が、「体験型農園の運営の検証について」と題して、「体験型農園研究会」において実施した利用者アンケートの調査結果等から見えてきた、体験型農園の運営の現状と課題や、そして方向性等について発表したので、今回はその概要を紹介したい。
1. 調査の概要
JA全中では昨年7月に「体験型農園研究会」を設置し、すでに開設されているJA主体及びJA支援による体験型農園を対象として、実践を踏まえた課題に即して運営改善の方策等を検討してきた。
この研究会の中で、体験型農園の利用者アンケートを、研究会委員の3JA7農園とその他3農園を加えた合計6JA10農園を対象に、昨年9月から10月にかけて実施し、利用者159名から回答を得た(1区画で複数名が回答した区画も含むため、区画数では131区画となる)。
アンケートの質問は主に、利用者の属性、広告、運営内容の評価及び効果等から成り、その結果の概要を以下紹介する。
2. 体験型農園の利用者の特徴
利用者の年齢と類型
体験型農園の利用者は、家族など複数の人数で1つの区画を利用していることが多いことから、利用者全員の年齢を答えてもらった。その結果から利用者全員の年齢構成を見ると(図2)、特に大きな偏りはなく、非常に幅広い年齢層が利用している。その中でも40歳代が最も多く、次いで50歳代、60歳代、10歳未満の順となっている。一般的に高齢者層が利用者の大半を占める貸し農園とは、利用者層がかなり異なると言える。
また、利用者を区画単位で見たときに、利用者の家族構成等から類型化してみると(図3)、50歳以上の夫婦「中高年夫婦」と、未成年の子どもがいる親子「子育てファミリー」の、この2つが主なターゲットとなる利用者層と言える。
■来園の手段と頻度
体験型農園に来園する際の交通手段については(図4)、自家用車で来園する利用者が6割近くを占め、次いで徒歩18%、自転車16%の順となっている。調査対象農園の多くが、郊外部や地方の自動車利用が中心となる地域にあることからも、自家用車利用が多くを占める結果となった。
また、来園頻度については(図5)、週1回が約4割を占めて最も多く、週2回が24%、週3回以上が14%と、全般的に来園頻度が高く、熱心に通って栽培管理や収穫をしている利用者が多いことがわかる。
利用者の居住地から農園までの移動距離で見ると(図6)、徒歩・自転車圏内(徒歩25分以内・2km圏内)が36%、車で5~15分圏内(2~6km圏内)が38%となっている。
来園手段に関係なく所要時間を見ると(図7)、5~10分が最も多く、合わせて15分以内が過半数を占めている。
また、来園頻度について、年齢と移動距離別に見ると、年齢別にでは(図8)60歳代が最も来園頻度が高く、50歳代を合わせた中高年層の来園頻度が高い。
農園までの移動距離別では(図9)、徒歩5分以内や車で10分以内の利用者の来園頻度が特に高く、車で30分以内であればほぼ週に1回以上来園している。ただし、車で30以上と遠くなると、来園頻度が落ち、頻繁に来園することが難しいと見られる。
2.広告宣伝方法
利用者の募集に対して、農園の申込時に見た広告等については(図10)、配布チラシが26%と最も多く、次いでJA広報、タウン誌、掲示ポスターの順となっている。
利用者類型別に見ると(図11)、子どものいる2世代・3世代家族ではチラシやその他(口コミ等)が多く、年齢別に見ると(図12)、60歳以上の高齢者がJA広報、自治体広報、新聞が比較的多く、一方で30歳未満はJA広報が非常に見ておらず、ネットが多い傾向が見られる。
また、時間距離別では(図13)、徒歩圏で特に距離が近いほど配布チラシが多く、車利用圏ではJA広報や新聞が多いなどの傾向も見られる。これは、各農園で実施した広告宣伝方法も、チラシのポスティングの対象が主に徒歩・自転車圏内の住宅を対象とし、その他の広域を対象として、JA広報やタウン誌、新聞折込などを実施したことの結果でもある。
3.提供サービス等の評価
体験型農園の提供サービスについて、全般的には「ちょうど良い」または「十分」といった評価が多くを占めており、総じて適切なサービス内容として評価できる(図14)。
ただし、個別に見ると、「収穫できた野菜の量」は、「多い」が35%と、穫れすぎて食べきれないとする利用者が比較的多い。また、農具や野菜の種類について「少ない」と感じている人や、利用料金が高いと感じている人も一部見られる。
さらに、区画面積について、各農園の区画面積別に見ると(図15)、最も多い20m²は88%が「ちょうどよい」とし、15m²の農園では約2割が「狭い」と感じている。
また、利用料金について、各農園の利用料金別に見ると(図16)、4万円台及び2万円台の農園では9割以上が「ちょうど良い」とし、5万円以上の農園では3割前後が「高い」と感じている。
3. 体験型農園の効果
JAとの関わり
農園利用者の中には、正組合員が8区画、准組合員が27区画、合わせた組合員率が27%であった(図17)。なお、正組合員の場合は、稲作農家や農業経験の無い組合員子弟が野菜の栽培を習いたいという意向によるものだという。
また、農園利用者のJA事業利用については(図18)、JAバンクの口座を持っている人と、JAの農産物直売所を利用している人がいずれも半数近くを占めている。
利用者にとっての効果
農園を利用して良かったこととして、想定されるいくつかの体験型農園の効果についてそれぞれ評価を尋ねたところ、全般的に非常に高い評価を得た。特に「野菜を栽培することが楽しい」、「収穫した野菜に満足」に約9割が「そう思う」と高い評価をしている。
また、「精神的にリフレッシュ」(74%)、「食生活が改善・向上」(61%)も、多くの人が「そう思う」と評価している。そして、農園利用を通じて、「農業や農地の大切さ」(79%)や「JAの地域農業振興への大きな役割」(60%)の理解につながっていると言える。
利用者にとっての効果を、主な利用者類型別に見ると、中高年の夫婦は、「野菜を栽培することが楽しい」、「野菜を人にあげると喜ばれる」といった項目について、特に評価が高く、野菜を自分で作り、それを人に評価されることに価値を感じていると言える。
また、子育てファミリーは、「農とのふれあいが、子どもの健全な成長に良い効果」と非常に高く評価しており、「収穫した野菜に満足」と、特に子どもが収穫を楽しんでいると思われる。
4. 体験型農園の運営改善と今後の展望
体験型農園研究会では、年度内にその成果をとりまとめることとしており、この利用者アンケートの結果は中間報告ではあるが、最後に一定の方向性と展望を示しておきたい。
まず、JAによる体験型農園の取組みは、まだ始まったばかりで、全国的に取り組んでいるJAは少ない。すでに開設されている体験型農園も、思うように利用者の獲得が出来ていないケースも見られる。
しかし、今回の利用者アンケートの結果に見られるように、利用者からの評価は非常に高く、リピート率も高い。体験型農園に対する潜在的ニーズは大きいものの、関心があってもまだ参加していない人や、利用意向があっても近くに農園が無い地域が、まだまだたくさんあるのが現状と言える。
今年度体験型農園研究会で実施しているような、効果測定を継続的に行うことで、利用者の獲得や効果的かつ効率的な運営へと改善を図っていくことが期待される。
子育てファミリーや中高年夫婦といった主なターゲット層に重点を置いた訴求を強化することが重要で、ターゲット層に届く必要な“量”と、価値ある“質”の情報を発信していくことで、利用者を獲得して、運営の改善を図っていく。
これらの運営改善とそのノウハウの蓄積と共有化を図ることで、全国各地で新規農園の普及・拡大し、それにより、体験型農園の様々な効果の向上が期待できる。こうした動きが一層本格化するよう、今後のJAの取り組みに期待するとともに、筆者もその開設や運営の支援を通じて貢献していきたい。