令和2年地価公示が公表される

国土交通省は3月18日、令和2年1月1日時点の地価公示を発表した。これによると、地方圏の地方四市以外のその他の地域でも全用途平均・商業地が平成4年以来28年ぶりに上昇に転じ、全国的に地価の回復傾向が広がった。ただ、その後の新型コロナウィルスの感染拡大によって大幅な景気の悪化が予想され、地価の動向にも不透明感が強まっている。

全国平均で住宅地は3年連続上昇、商業地は5年連続上昇

全国平均の地価の変動率では、住宅地は0.8%上昇(昨年+0.6%)と、昨年に続き3年連続の上昇となった。商業地は3.1%上昇(同+2.8%)と、5年連続の上昇となった(表1)。この背景として、低金利や賃金の上昇が不動産投資や個人の住宅取得の意欲を支えていると見られる。

全国における変動別地点割合でも、住宅地では44.3%、商業地では58.6%が上昇となり、前年より上昇地点割合が増え、全国的に地価の回復傾向が強まった(表3)。

2020地価公示 表1
表1 圏域別・地方別対前年比平均変動率

三大都市圏は上昇幅が拡大、地方圏のその他地域も全用途平均が28年ぶりの上昇

圏域・地方別に地価の変動率を見ると(表1)、三大都市圏では全ての都市圏で住宅地、商業地ともに上昇し、その上昇幅は、東京圏と大阪圏が拡大し、名古屋圏は縮小した。
地方圏の住宅地では昨年に続き上昇し(0.5%)、商業地は3年連続の上昇(1.5%)となった。地方四市を除くその他の地域でも、全用途平均と商業地は28年ぶり、住宅地は25年ぶりの上昇となった。

東京圏の住宅地は1.4%上昇(昨年+1.3%)と6年連続で上昇となり、東京都で2.8%上昇(同+2.9%)、埼玉県で1.0%上昇(同+0.7%)、千葉県で0.7%上昇(同+0.6%)、神奈川県で0.3%上昇(同+0.3%)と東京都を除いて上昇幅が拡大した(表3)。商業地は、5.2%上昇(同+4.7%)と7年連続の上昇。特に東京都は7.2%上昇(同+6.8%)となり、商業施設やオフィスの需要が拡大している。

図1圏域別変動率住宅

住宅地の変動率は沖縄県が4年連続で全国1位

都道府県別に地価の変動を見ると(図3、図4、表2)、住宅地では沖縄県が9.5%上昇(昨年+8.5%)で4年連続全国1位となり、2位の宮城県(同+3.5%)以下を大きく引き離し、住宅地の上昇地点割合は実に99.2%を占めている。そのほか、福岡県が3.5%上昇(同+2.6%)、東京都が2.8%上昇(同+2.9%)、北海道が2.2%上昇(同+0.7%)と続いている。

4年連続1位となった沖縄県は、人口や観光客も増加傾向が継続し、リゾート物件への投資も地価を押し上げており、那覇市周辺だけでなく本島中部や宮古島等離島にも拡大している。

地方四市は三大都市圏を上回る高い上昇率

地方圏の中でも、地方四市(札幌市、仙台市、広島市、福岡市)では、住宅地は5.9%上昇(昨年+4.4%)、商業地は11.3%上昇(同+9.4%)と、三大都市圏を上回る高い上昇率を示している(表1)。

札幌市の住宅地は7.1%上昇と(表3)、 主要都市の住宅地地価変動率 全国10位、昨年+4.0%)、地方四市の中でも最も高い上昇率となった。中央区及びその隣接区に加え、相対的に割安感のある厚別区、⼿稲区などの周辺区にも住宅需要の広がりが見られる。
福岡市の住宅地は6.8%上昇し(全国13位、昨年+5.3%)、顕著な⼈⼝増加を背景に、鉄道駅徒歩圏の利便性が良好な地域を中⼼に引き続き需要が堅調で、特に、天神地区・博多地区へのアクセスに優れた地域でのマンション⽤地に対する需要が強い。

仙台市の住宅地は5.7%上昇し(全国19位、昨年+5.8%)、仙台駅周辺及び鉄道駅徒歩圏を中⼼に引き続き需要が堅調となっている。
広島市の住宅地は3.1%上昇し(全国40位、昨年+2.7%)、市中⼼部への接近性に優れ住環境が良好な平坦地や、郊外型⼤型店舗周辺の⽣活利便性が⾼い地域において需要が堅調である。

地方四市以外の地方都市の中では、金沢市が4.3%上昇で全国24位と唯一30位内にランクインした(昨年+2.0%)。北陸新幹線の開通から5年目となるが、依然として堅調な需要が続いている。

東京都特別区への一極集中と東京圏の縮小

三大都市圏及び地方圏主要都市の住宅地地価変動率(表3)を見ると、上位20以内には、三大都市圏では東京圏の市区が、荒川区(全国6位、変動率+8.8%)を筆頭に10区入っており、その全てが東京都特別区であり一極集中の様相を強めている。

一方、下位20位を見ると、神奈川県の西部や三浦半島の市が5市あり、いずれも東京都心からはやや離れた東京圏の縁辺部に位置する。一方で、埼玉県南部の川口市(全国24位、変動率+4.3%)、蕨市(24位)、戸田市(29位)が上位30位内にランクインしている。東京都心への距離や利便性が地価の変動要因として顕著に現れており、東京圏としては縮小傾向にある。

沖縄県・福岡県では好調な地域経済を背景とした地価上昇

主要都市の住宅地地価変動率(表3)を見ると、上位3位までを沖縄県内の市が独占しており、上位20以内に沖縄県内と福岡県内の市それぞれ4市が入っており、九州・沖縄地方の勢いが引き続き目立っている。

特に沖縄県では、本島中部に位置する沖縄市が11.1%上昇で全国1位となり、那覇市と浦添市がともに9.6%上昇と全国2位の非常に高い上昇率となった。この他うるま市も6.7%上昇で15位と、那覇市周辺にとどまらず広範囲で住宅需要が高まっている。
福岡県では、福岡市(13位)に加え、福岡市にアクセスしやすい周辺の春日市(4位、変動率+9.6%)、筑紫野市(5位、+9.1%)、大野城市(7位、+8.2%)でも大幅な地価上昇が見られ、福岡都市圏の拡大傾向が続いている。

表 2 都道府県別・用途別対前年平均変動率
住宅地の変動率
住宅地上昇地点の割合
表 3 三大都市圏及び地方圏主要都市の地価変動率
表3地価公示上位30

新型コロナウィルスの影響が懸念される

今回の公示地価は、新型コロナウィルスの感染が広がる前の1月1日時点のものであり、その影響は全く折り込まれていない。ようやく全国的に地価の回復傾向が広がってきたところに、突如として押し寄せた“コロナショック”が、これまで全国的な地価の回復を支えてきた主な要因である、景気回復、雇用・所得環境の改善、インバウンドや東京オリンピック開催に伴う需要など、これら全てが“コロナショック”によって、大打撃を受けかねない状況にある。

いずれにせよ、原稿執筆の3月下旬において、今後コロナウィルスによる影響がどこまで拡大するのか見通すことは困難であり、今後の推移を注視していくしかない。

JA全中「JAまちづくり資産管理情報」2020年5月号に掲載
(注)月刊誌掲載内容を一部省略しています。

国土交通省「令和2年度地価公示」
国土交通省「地価公示・都道府県地価調査」